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SAKON Dialogue : 001-1

超高齢社会における幸福とは何か①

大方潤一郎(東京大学高齢社会総合研究機構・機構長)PART1
大方潤一郎
JUNICHIRO OKATA
東京大学 高齢社会総合研究機構(IOG) 機構長
東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻 教授
SAKON Dialogue : 001-1
超高齢社会における幸福とは何か①
高齢者世代が総人口の25%を超える「超高齢社会」を迎えた日本。大きな変革期を迎えています。 そしてこの問題は、医療や福祉といった分野に留まるものではなく、それを起点としつつ、より横断的な視点から社会を見つめ直すことが必要です。 東京大学・高齢社会総合研究機構(IOG)機構長を勤める大方潤一郎教授と共に、愛知県豊橋市にあるさわらびグループ/福祉村病院を訪ね、90歳社会時代の社会デザインについてお話を伺いました。
photos : Hitoshi Iwakiri
text : Keisuke Ueda

さわらびグループが描く、
「エイジング・イン・プレイス」という未来。

大方潤一郎(以下、大方):さわらび福祉村を、初めて見学させていただきましたが、率直に言って驚きました。病院があり、福祉施設があり、特別養護老人ホームがあって、職員用ではあるもの保育所まである。それら多様な施設がフルセットでまとまっていて、それらがシナジー効果を生んでいる。
 このような、大規模でキャンパス型の総合的な施設は、日本ではまだまだ珍しいと思います。55年という時間をかけて、まず病院から始まり、しかもそれが当時としては先駆的であった認知症専門の医療法人で、その後に、社会福祉法人をつくられ、それから順次、障がい者施設もできあがっていった。時間をかけて、良いつながりを生んできたのだなと思います。

山本左近(以下、山本):今年55周年を迎えたさわらび会は豊橋市の郊外にあるのですが、当時のこの辺りは町ではなく山だったんですね。そこを整備して、一つ一つ施設を建てていって、現在の形になっています。病院や施設、それから保育所のほかにも職員寮や郵便局もあります。いま1,100人ほどのスタッフが働いていますが、ひとつのコミュニティのようになっています。
 極力、景観を活かす設計を心がけてきたのは、患者さんや利用者の方のためでもありますが、ここで働くスタッフにとっても良い職場でありたいということ、そして、地域の人たちにとって敷居の低い親しみやすい施設でありたいという想いもありました。
 大方先生は、都市計画デザインをご専門とされていますが、コミュニティデザインといった観点から、今後の医療・福祉施設には何が必要だとお考えでしょう?

大方:「エイジング・イン・プレイス(Aging in Place)」という考え方は重要だと思いますね。これは「住み慣れた町で、最期まで生きる」という意味で、高齢社会における新しいコミュニティの在り方を示す考え方のひとつです。イメージとしては、人々が集まって、永く健康に生きていくことができる共同体というものでしょう。高齢になって、加齢とともに身体の機能が多少衰えたとしても、健康を維持し普通に暮らしていくことができる都市設計が、エイジング・イン・プレイスだったりします。
 長寿社会、あるいは、超高齢社会という時代においては、寿命が延びていく分、そうした暮らしを経験する人の数も普通に増えていく。そうなったときでも、人間らしく自由に生きていくことができる場所をつくる。施設のなかでみんなが同じ生活を強いられるのではなくて、例えば、人によっては天気の良い日には、外に出かけていってビールを一杯飲みに行くことができたり、あるいは、外の人たちが気軽に施設を訪れることができたりすると楽しいですよね。

福祉から始まるイノベーション。
超高齢社会デザインは誰のもの?

大方:実は、今日、この福祉村に伺ってですね、なるほど、エイジング・イン・プレイスのヒントを見せてもらったなと感じました。

山本:それはどういったことでしょう?

大方:つまり、介護生活は「普通の暮らし」なんだということです。 誰もが、子どもの頃に幼稚園にいったり、学校に通ったりする時代を経験しているように、年齢を重ねたら介護施設のお世話になることもあるわけです。福祉村の利用者の方、そして彼らと接するスタッフの方の様子を拝見しているとお互いが明るく、普通に交流されていますよね。介護生活とは、特殊な生活ではないということを、既に彼らは実践されている。
 エイジング・イン・プレイスとは、新しい時代の、新しい普通の暮らしをデザインしようということ。それを実現するためには、彼らが担っている役割、これまで特定の施設のなかで行われてきたことを、施設の外へ、地域に拡げていくことが必要となります。地域にとっては、施設があれば良いということではなく、そうした施設を拠点としてどのような街づくりをするかという視点が求められるでしょう。

山本:テクノロジーについてはどうでしょう? 
僕自身はF1というモータースポーツの世界でドライバーとしての経験があるのですが、福祉の世界に活用できることが多いと思っています。F1は世界最高峰であるからこそ、そこで競われ、磨かれたテクノロジーは、量産型の自動車の開発にフィードバックされていくわけです。
 新しい福祉社会をデザインしようとするとき、私たち現場の課題をICTの活用により、患者さんや利用者の方への医療の質を向上につながると思いますし、AIやGPSといった技術を使えば、認知症の方や障がい者の方の行動範囲を安全に拡げることができると思います。
 逆に言えば、そうしたイノベーティブな試みを真っ先に取り込める世界が、医療・福祉の現場なのかなと思っていますし、そこで実践されたことが、これからの街づくりにも活かされると思うのですが。

大方:それこそ、超高齢社会デザインの本質なんですね。超高齢社会を考えることは、将来、年を重ねて高齢者になる子どもたちのためでもあるわけです。当然、そこには新しいテクノロジーを積極的に採り入れていく必要がある。私が機構長を勤めているIOG(Institute of Gerontology:東京大学 高齢社会総合研究機構)では、超高齢社会デザインの範疇を都市デザインや交通システムといった社会インフラの変革までを視野に入れて、学部横断的に取り組んでいます。
大方潤一郎
JUNICHIRO OKATA
東京大学 高齢社会総合研究機構(IOG) 機構長
東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻 教授
1954年川崎市に生まれ。東京大学都市工学科の学部・大学院(博士課程)を卒業。1996年・東京大学都市工学科助教授、99年から同教授。専門は都市計画、土地利用計画。2003年度からは、21世紀COE「都市空間の持続再生学の創出」のサブリーダーとして持続可能な都市地域空間の形成手法を探求。2009 年度からは、高齢社会総合研究機構(IOG)のメンバーとして、超高齢社会の住まい・まちづくりの研究に注力。2011年3.11以降は、岩手県大槌町等 での仮設まちづくりの支援、被災地の復興を通じた新たなコミュニティの形成に奮闘中。2013年4月から高齢社会総合研究機構・機構長を兼務。同年よりリーディング大学院「活力ある超高齢社会を共創するグローバルリーダー養成プログラム」プログラム・コーディネータ。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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