プロジェリア(早老症)

福祉村病院長寿医学研究所
ドイツ・ハノーバー医科大学教授
堀 映

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プロジェリア(早老症)=早発性(子供・若年者の)病的老化

子供に生じうる(病的)老化現象

私の神経病理学研究は主として胎児から新生児にかけての脳の発育に重点を置いてきましたが、脳の老化や認知症の問題も避けられませんでした。胎児と老人の両領域を結びつけるプロジェリアの脳研究は未開拓の分野です。子供に生じうる(病的)老化現象について述べましょう。

早老症には、先天性あるいは新生児のウィーデマン・ラウテンシュトラウホ症候群、半年から一歳位で発症するハッチンソン・ギルフォード症候群、一桁年齢から二十歳代までに発症するウェルナー症候群(日本で漸増?)があります。どの民族にも見られる稀な疾患です。これら早老症が知られ始めた頃は、主として結合組織や皮膚の老化病変が注目され、その脳病変は不明でしたが、責任遺伝子などはわかってきました。その後、脳にも老化病変を認めたという報告がありましたが、遺憾ながらあまり注目されていません。

ほかに、本来の発達障碍に加えて若年からアルツハイマー病類似の認知症の始まりうるダウン症候群(これにより脳の病的老化への染色体・遺伝子の研究がすすみました)、また生後二年ぐらいから病状の進むコッケイン症候群と呼ばれる一種の白質異栄養症なども早老症を示す病気といえるでしょう。

身体の老化とは関係なく子供や若年者に、アルツハイマー病で知られている神経原線維変化などが生じうる疾患として、脳腫瘍(ガングリオグリオーマ)、代謝異常疾患(ニーマン・ピック病)、亜急性硬化性全脳脳炎、福山型筋ジストロフィーその他の筋疾患など様々な病態があります。このように見てくると、神経原線維変化とベータアミロイド蓄積とだけに集中したアルツハイマー病研究は、脳の老化研究のきわめて狭小な領域にしか貢献できないものということがわかるでしょう。狭い領域でもとことん追求してこそ本質の一部に迫りうるものではありましょうが。

私は手始めに胎児期の病的に早すぎる脳の発育について調べていました。そんな時期にドイツのある同僚から、こんな胎児例は見たことがないから調べてほしいと依頼を受けたのですが、これがまさに胎児性の早老症と考えられるものでした(事情で詳細な研究ができなかったのが残念です)。人より先に準備を整えておけば必ず最先端の研究の機会は訪れるものと思いますが、世界の神経病理学者の中から、プロジェリア脳研究のパイオニアが早く生まれることを願っています。この問題解決の努力は、必ずや一般の脳老化や認知症の研究を飛躍的に推し進めるでしょう。


文献
Hori (1989) Aging in childhood. In: Principles of Neural Aging. Elsevier
Hori et al. (1988) Ganglioglioma with neurofibrillary tangles… J Neurosurg
Brat et al. (2001) Tau-associated neuropathology in ganglion cell tumours… Neuropathol  Appl Neurobiol
Hori (1996) Precocious brain development… Acta Neuropathol

参考
「タウ」とは、神経細胞内の微細構造である微小細管(トゥブルス)を構成するタンパク質の一種トゥブリンの頭文字Tをギリシャ文字で表し、その発音をとったものです。ですからこのタウタンパク質の異常に基づく病気は「タウオパチー」でなく「タウパチー」というのが文法的には正しいのです。文法上間違ったまま(日本語では漢字の読み方を違えたまま)使用される医学用語は非常にたくさんあります。