COVER STORY

身土不二

人間の心身は小さな宇宙

それは大宇宙に包まれている

photos : Hitoshi Iwakiri
text : Junko Haraguchi
 中国医学の識者としてお話をいただいた徐文波先生。
 素敵な中国刺繍入りのコートをはおって、手に持つのは本特集に関係する様々な食材。目で見て楽しいもの、口に入れて美味しいもの、心地良い会話など、フルに五感を楽しませることが心身の健やかさにはとても大事だという。
 その実践者である徐先生は人生を楽しむオーラに包まれている。
 旧暦の12月8日に食べる習慣がある「八宝粥」の具は「必ず8種類」ということではなくもっと多くてもOK。
 その典型的な具を見せていただいた。中央のナツメやクルミなど、「八宝粥」の具の多くは、食材マーケットで売られていると同時に薬局でも売られている生薬でもある。
 中国の伝統では、「医」と「食」は一つながり、まさに「医食同源」。
 北京の夏の伝統の飲み物、「酸梅湯」。左は燻製にした梅の実で「烏梅」と呼ばれ、薬局で生薬として売られている。
 「酸梅湯」は「烏梅」と氷砂糖、右/キンモクセイの花などをゆっくり煮詰めて作る。北京では夏になると、自家製の「酸梅湯」をメニューに組み込むレストランも少なくない。「医食同源」は飲み物でも実践される。
 「冷蔵庫で冷やした飲み物は代謝を落とすので、室温くらいで」と徐先生。現代人は冷えたものを採りすぎ、という。
 徐先生が診察を行う中国医学クリニック内の薬局。一人一人の患者にあわせて処方された処方箋に基づき、伝統の天秤で生薬をはかっていく。
 多くの生薬はまた食材でもあり、市場でも売られている。
 クリニックでは、中国医学の普及により健やかな社会を育むことを目指し、一般の人々むけの講座が開かれている。
 伝統の医学だが、近年になって関心が高まり、一般むけに中国医学を分かりやすく解説した書籍からベストセラーも生まれている。
 古代に使われた九種類の針の模型がクリニックに飾られている。
 「経絡」や「ツボ」といった心身への深い考察が数千年にわたり蓄積されている中国医学。さりげない装飾からもその知恵が感じられる。
 夏になると北京の食卓によく登場する「緑豆粥」。「緑豆」は体の熱を冷まし余分な水分を輩出する作用があり、蒸し暑い夏にぴったりな食材。
 北京の人たちみなが中国医学の理論に通じている、というわけではないけれど、親から子へ受け継がれた「この季節にはこんな食事を」という習慣が駆け足で進む国の人たちを守っている。
 天壇公園で展開される様々な運動について識者としてお話を伺った李洲先生。周囲のたくさんの運動につられ思わず自らも太極拳を披露してくれた。
 「マシンでただ筋肉を動かすだけでなく、運動においては社会のルールにしばられ普段は自由に動かせない体を心の赴くまま、動かすことが大事」という。
 ふわっと体を動かし始めた李先生はまさにその実践者。バラバラになっている現代人の体と心をむすぶ智慧はここにあるのかもしれない。
 旗が回る動きは柔らかくとても美しい。その美しさが心を明るくする。
 「運動では心が動くことも大事」と李先生は言い、心への作用も重視する。また「旗の動きに集中することで、雑念や悩みを忘れることができるのが、小道具を使った運動の良さ。小道具に連れて目が動くことで目の運動にもなります」。
 現代人にもっとも必要な運動は目の運動と李先生。旗を回すため8の字形に腰を動かすことになり、自然と腰や脊髄の運動にもなる。
 2本の竹の棒につけたヒモで車輪のようなコマを回す中国伝統の「空竹」。
 コマの大小によって動きの種類も無数にあり長く続けても飽きることがないという。コマの動きに注意する集中力、動きを覚える記憶力、そして全身のバランス力も向上。
 しかも遊びの要素があるのでとにかく楽しい。天壇公園には毎朝「空竹」を続けて十数年という人が沢山いる。
 くるくると回したコマを最後に竹の棒の上にピシッと乗せる。最後はけん玉のような動きがあり、これが決まるとニッコリ。
 見ている方も思わず拍手してしまう。「誰かの運動を見て、その喜びを感じるのも運動。目の運動でもあり、心が感動すれば、心動になる」。
 天壇公園のようなパブリックスペースは、他の人の運動をたくさん見られるのも優れた点だという。
 年齢を重ねるにつれ、体をあまり動かさなくなり、筋肉は委縮しがち。
 「シニアの運動では、激しいものではなく、体を伸ばし、血流をあげるような運動がふさわしい」。
 ゆったりと伸ばす動作がたくさん入る太極拳もシニアの愛好者がたくさん。
 体の技能力が高くなくても楽しめる公園のダンスはシニアにもぴったり。
 誰と競うでもない、気持ちを体で表現する「心動」要素が大きい。また公園ダンスは踊る方も見る方にも緊張感よりも解放感をもたらす。
 「下手なステップで周囲とぜんぜんあっていなくても本人は楽しいし、見ている方も楽しい。思わず笑ってしまうユーモアにあふれているのが公園ダンスの素晴らしさ」
 動物の動きを模倣する運動、実は世界遺産に推奨したいくらいの歴史あり。
 2~3世紀に活躍した中国の名医、華陀は、猿、鹿、熊、虎、鳥の動きの真似をすることが健康法になるという「五禽劇」を提唱したが、21世紀の天壇公園でもそれが続いている!
 「自然への崇拝の気持ちが養われるとともにふだん使わない筋肉や関節が動くことになります」皇帝が天を敬う儀式を司った場所、天壇公園はこの連綿と続く運動法の場所としてもぴったり。
 合唱も立派な運動である。
 「肺など呼吸系統の運動であり、口の運動です。人が生れてまず動かすのは、おっぱいを飲む口。食事をとる口は、人生の最後まで大事。会話を楽しむのも歌もその運動にもなります」
 大きく口をあけ、息を吸い込み、元気に明日を生きていきたい。
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