COVER STORY

HOW COOL!!

進化するパラスポーツ
心の壁を破るクリエイティビティ

photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Sakon Yamamoto, Hiroko Suzuki
パラリンピックの正式種目のひとつ「車椅子レース」の圧倒的な迫力を体験してほしい。そんな想いで開発されたのが、株式会社ワントゥーテンによる「CYBER SPORTS」プロジェクト第1弾「CYBER WHEEL(サイバーウィル)」だ。せっかくなら飛び抜けてカッコよく、スタイリッシュなデザインに! VRなど最先端テクノロジーを搭載した未来型デザインのウィルは、「障がい者のための、特別な運動器具」などではない。
ワントゥーテンのシニアクリエイティブ・プロデューサーの住本さんに説明を受ける。実際の競技に使われるのはカーボンやチタンを使った3輪タイプの車椅子で、見かけによらず片手で持ち上げられるほど軽い。パラスポーツの選手は腕の力だけで走りきるが、その最高速度は60kmにものぼるという。
サイバーウィルではまず座椅子に腰掛け、左右のタイヤについているハンドリムを回す。速さをアップすれば、景色の流れる速度もさらに増す。
ゴーグル型のヘッドマウントディスプレイを装着。プレイヤーがプレー中に目にしている目前に広がる光景は、大きなモニターにも表示される。つまり、同じ光景を、観客もリアルに体験できるというわけだ。
ゲーム用にアレンジされたレースの舞台は、AD2100年のTOKYO。5つの舞台にまたがる400mの直線コースを疾走する。音楽とSEで未来のTOKYOに没入しながら360度の映像を見ることができ、ヘッドトラッキングによって障がい物を避けたり、左右にコースを移動したりすることも可能だ。
1レース42秒で完走。思った以上に疲れる! サイバーウィルの平均タイムは男性で40〜50秒らしく、時速にすれば約30kmということになる。パラスポーツはすごくエキサイティングな競技だし、その魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい。
続けて、「CYBER SPORTS」プロジェクト第2弾「CYBER BOCCHA(サイバーボッチャ)」を体験した。同じくパラリンピックの正式種目である「ボッチャ」は、ビリヤードとカーリングを足して2で割ったようなスポーツだ。通常は10m×6mのコートで行われるが、サイバーボッチャは縮尺1/6のコートを使用する。サイズ感はコンパクトでも、その迫力はオリジナルに勝るとも劣らない。そこには、最新テクノロジーの力がふんだんに生かされている。
白いボールはジャックボール(目標球)。二手に分かれ、まずどちらかがこのジャックボールを投げる。続いて一方が青、もう一方が赤のボールを6球ずつ投げる。青と赤のボールは、通常の競技で使われるものと同じだが、実は、ボールは一つひとつ、微妙に手触りや素材感が異なっている。重量の規定内であれば、ボールの硬さをカスタマイズすることが可能で、「次の一投でどのボールを選ぶか」楽しめるようにしているのだ。
青いボールのチームと、赤いボールのチーム。どちらがジャックボールに近づけられるかで勝敗が決まる。ボッチャの選手は、重度の脳性麻痺や同程度の四肢重度機能障がいを持った人が多い。彼らはボールを手にした時、その触感の違いにいったい何を感じるか。もしかしたらそれは彼らの脳を刺激し、体を動かす楽しさや高揚感を与えるかもしれない。
ボッチャはただボールを投げるだけじゃない。相手ボールを弾いたり、白いボールの周辺を固めたり、戦略的でスリリングなスポーツだ。リオのパラリンピックで日本代表の「火ノ玉JAPAN」が銀メダルを獲得したことは知っていたが、こんなに魅力あるスポーツだとは、実際にやってみるまで知らなかった。こういう技術がどんどん開発されれば、きっとパラスポーツに興味を持つ人が増える。そして、「観る人」や「やる人」も多くなる。その先に存在するのは、多分、差別も偏見もない新しい日本だ。
それぞれのチームが投げたボールはリアルタイムでセンシングされ、ジャックボールとの距離がミリ単位で自動計測される(編集部注:パラスポーツのボッチャは審判が計測)。
このゲームは僕の勝ちだった。進行やルール、点数などもすべてプロジェクション映像により、カッコよくコートに映し出される。ボールの位置や戦局によってサウンドも変化し、雰囲気を盛り上げる。こんなマシンがバーにあったら、そして、誰もが当たり前のように楽しめたら、とても素敵だと思う。
back to top