COLUMN

原宿食サミット・レポート1

心技体を支える食
 2018年11月6日、東京・原宿にて「第1回 原宿食サミット」が開催された。主催はフランスのニースと原宿にあるレストラン「Keisuke Matsushima」のオーナーであり、シェフでもある松嶋啓介氏。
 研究者や行政関係者、起業家、スポーツ選手、住職などユニークな顔ぶれのパネリストが「予防医学」「健康経営」「UMAMI」「食とスポーツ」「食とコミュニティ」「食とテクノロジー」をテーマに、それぞれの立場から熱く語り合った。
 本記事では、この中から、食を通したコンディションづくりとパフォーマンスの上げ方などをめぐって話がはずんだ「食とスポーツ」をテーマにしたディスカッションをレポートしていく。
photos : Kimihiro
text : Keiko Sawada

何を食べるかでパフォーマンスが変わる

 食の乱れや食文化の衰退が叫ばれるなか、共に考え、共に食事をすることで、食を見直し、「喰い改める」ことの大切さを発信していくーー。これが原宿食サミットの趣旨だ。主催の松嶋氏は常々、現代人の食習慣のゆがみを正して「喰い改めよ」と話しているという。

 第4部にあたる「食とスポーツ」のディスカッションは、「心技体を支える食」をテーマに、ロンドン五輪で銀メダル・2015年の世界選手権で金メダルを獲得したフェンシングの太田雄貴氏、プロアスリートに栄養指導をする管理栄養士の石松佑梨氏、そして長寿のMIKATA編集長の山本左近氏が登壇。

 サッカーJリーグ浦和レッズのエース・柏木陽介選手の妻であり、元TBSテレビのアナウンサー・柏木渚さんがモデレーターを務め、最初に議題にあがったのは、アスリートはどんなものを食べて集中力を高めているかだ。

 結論としては、「集中力を高める食事はない」というのが全員の一致した意見だったが、左近氏によると「ここ一番で集中力を発揮できるかどうかは、それまでの食事やトレーニングによって変わってくる」とのこと。

 太田氏も「フェンシングは代表選手になるまで、食事は全て自己管理です。だから当初は、海外遠征のときに体調不良を起こすことが怖くて、日本からご飯やレトルト食を持って行っていたのですが、コーチから『加工食品ばかり食べていたら試合で勝てない』と注意を受けたことをきっかけに、現地で食材を調達して自炊するようにしました」という。

 何を食べるかは、やはりパフォーマンスに影響を与えるようだ。

コンディションを整えるために食事を記録する

 コンディションと食との関連性について、左近氏は自身の経験から「食事を記録すること」が大切という。サーキットを高速で走り続けると、1レースで体内の水分量が約2キロ減るとのこと。

左近氏「過酷な環境でコンディションを維持するために食事はとても重要で、そのために、管理栄養士さんから食事管理のサポートを受けていました。正しく指導を受けるために、やっていたことが何を食べたかの記録です。
1週間ごとに食べたものをメモするだけで、食に対する意識はすごく変わります。その日の食事を考える以上の気づきがあり、書き出す作業は本当に大事に思います」

石松氏「私はもともとプロのアスリートに栄養指導をしていたのですが、最近は子どもたちが対象になっています。それは『大人になってからでは間に合わない』という部分が見えてきたからです。子どもの頃に覚えた習慣は、なかなか変えられませんし、幼少期に食べたものが、その人の食に対する意識の基本となります。
 まず子どもたちにやってもらっているのが、お母さんとの食トレです。何を食べたかをお母さんと子どもとでノートに書いてもらっているのです。食べたものを記録するということは、日々の食事を考えるうえで大切ですし、コンディションと食との関連性をさかのぼって見るときにも役立ちます」

 太田氏はさらに「選手生活をサポートしてくれた父は、いつも手づくりのごはんをつくる人でした。僕は食を通じて、親から愛をもって育てられたと強く感じています」と、子ども時代の食体験の大切さについても言及した。

食べたものが、体をつくる

 良いエネルギーの食材を食べると、良いエネルギーとなって表れる。逆に、エネルギーの良くないものを食べると、良くないエネルギーになる。太田氏はそう実感して以降、肉類はジビエしか食べないようになったという。

太田氏「何を食べるかだけでなく、その食材がどのように育ったかも大事だと思います。僕は野生で育ったジビエは生命力が違うと感じてから、肉類はジビエしか食べなくなりました」

左近氏「僕も自分が口にするものの源流を意識することは大切だと思います。子どもの頃に読んだ絵本の影響で、『食べたものが、その人のからだをつくる』という意識があるのですが、現役時代も、いいものを食べることによってトレーニングの質も上がりあますし、結果として、レース当日のパフォーマンスも上がると思います。
 車に例えれば、同じエンジンでも、どういうガソリンを選ぶかでパフォーマンスは異なります。競争が激しい世界で勝敗を決めるのは、本当に微々たる差。そこを意識できるかどうかで勝ち負けが決まってくるのです」

 その一方で、「常識にとらわれないで、自分が一番パフォーマンスを出せる環境に気づくことも大切」と左近氏はいう。

左近氏「レース本番前になったら、この食べ物が体にいいというようなことを考えている場合じゃありません。リラックスして臨むために、その状況で自分にもっとも合っているものが何かを見極める必要があります」

石松氏「栄養指導を行ううえでも、『パーソナルを見ていく』という考えはとても大事にしています。何を食べたらいいか、ということも大切ですが、それはほんとに人それぞれ違います。それよりも大切なのは、考え方です。 食べる内容とともに、質、量、タイミングを考えることが大切です。食に関する情報はあふれているので、噛み砕いて考え、自分に合っているかどうかを精査できるといいですね」

 最後に、「みんなで食卓を囲んで楽しく食べれば、食事は笑顔の元にもなります。それは食が持つコミュニケーションツールとしての機能です。食のもつポテンシャルは無限で、そのことを感じていただければと思います」とサミットの意義に触れて、太田氏が場を締めた。

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