MIRAI
山本左近の未来考察『医療福祉×テクノロジー』
第7回

徘徊を
テクノロジーで
補完する

Beyond the memory

 もう2年前のことになりますが、認知症に関心を持っていただきたい思いから、5分ほどのショートムービーを制作したことがあります。今回は本題に入る前に、このショートムービーをご覧いただければと思います。

Beyond the memory-90 society lab-


 日経新聞によると、このショートムービーを公開した2016年に、認知症が原因で行方がわからなくなったとして全国の警察に届け出があった行方不明者は、1万5432人だったとのことです。

 このうち警察の捜索活動や通報で発見されたケースは63.7%、不明者の自力帰宅や家族による発見は32.3%、3.1%に当たる471人は死亡した状態で見つかったそうです。

(*出典 日経新聞2017/6/15)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG14HB2_V10C17A6CR0000/

日本人の10人に1人が
認知症になる未来

 「徘徊という言葉を使わないでほしい。私たちは目的があって動いているのだから」

 最近では、こうした認知症当事者の方たちからの提言も出てきています。もちろんそれは十分に尊重したいことですが、本稿においては認知症の方の移動行動によって、当事者ならびに関係者に影響を及ぼす言葉として、適切な共通言語が見当たらないため、あえて徘徊という言葉を使わせていただくことをご了承ください。

 現在、認知症高齢者は462万人にのぼり、わずか7年後の2025年には730万人になり、さらにその予備群とされる「軽度認知障害」(MCI) も含めると1,000万人を超えると言われています。

 実に、日本人の10人に1人が認知症という状況で、「認知症社会」において徘徊する方が増えるのは無理もないことなのかもしれませんが、ただ手をこまねいているわけにもいきません。

 「気づいたら知らないどこかにいる。家に帰りたい。そう思って歩き始めるものの、自分が今どこへ向かって歩いているのかさえもわからなくなってしまった……」

 これが現代の徘徊と呼ばれる現象のオーソドックスなものだと思います。では、テクノロジーで徘徊を補完するとしたら、どんな可能性を見出せるのでしょうか。3つのケースにわけて考えてみました。

認知症であっても
自由に生活できる社会へ

◆ケース1
 気づいたら知らないどこかにいる。家に帰りたい。そう思って部屋を出る。外を歩き始めてしばらくすると、後ろから名前を呼ばれる。振り返ると、誰かはわからないけれど「一緒にお家へ帰りましょう」と声をかけてくれた。そして、その人と一緒に歩いて帰ってきた。

→GPSチップが入った下着を着用してもらっていたので、どこへ行ったのかすぐに知ることができる。

◆ケース2
 気づいたら知らないどこかにいる。家に帰りたい。そう思って表に出た瞬間、声をかけられる。そして、その人としばらく家にいた。

→本人の顔認証システムによって、表に出たことを察知。そのままアラートが管理者に転送され、 家を出た直後に声がけをすることで徘徊を防ぐことができる 。

◆ケース3
 気づいたら知らないどこかにいる。家に帰りたい。そう思って部屋を出る。外を歩き始めてしばらくしたら、目の前に何やら4つの羽がついた黒い物体が飛んできた。ビックリして立ち止まると、後ろから声をかけられた。そして、その人と一緒に歩いて帰ってきた。

→ドローンによる上空からの探索によって、人が探すよりも素早く居場所を特定できる。

 GPS、カメラによる顔認証システム、そしてドローン。それぞれのケースで考えてみましたが、こうしたテクノロジーを複合的に組み合わせることで早期発見につなげることができ、死亡事故などの最悪な事態を防ぐことが可能になるはずです。

 労働人口が減る社会においては、警察などでも人手不足が進んでいきます。テクノロジーの活用は、少ない人数でも今以上の質を担保することにつながる可能性を秘めているのではないでしょうか。

 そして、忘れてならない本題は、こうしたテクノロジーの活用は、認知症の方であっても、街のなかで自由に活発に生活できるコミュニティの実現にあるということです。
 そうした社会に向かうステップであることも合わせて記しておきたいと思います。

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