COLUMN

原宿食サミット・
レポート2

「人」を中心に据えながら食を考える
 昨年11月、東京・原宿にて「第1回原宿食サミット」が開催された。本記事では、当WEBマガジン編集長の山本左近が登壇した「食とテクノロジー」をテーマとするディスカッションをレポート。医学博士の石川善樹氏を進行役に、AIで料理をつくる研究をするデータサイエンティストの風間正弘氏、スマートキッチンサミットを開催するシグマシクス・田中宏隆氏とともにテクノロジーと食について語り合った。
 来る1月21、22日には、早くも2回目となる食サミットが開催される。次回のセッションテーマは「食と健康」「食と予防」「食とコミュニティ」「食とスポーツ」「食とテクノロジー」「食とデザイン」「味覚教育」「食品ロス問題」「食品偽装」など多岐にわたる。今後も注目のイベントだ。
photos : Kimihiro
text : Keiko Sawada

「食とテクノロジー」それぞれのアプローチ

「食」の乱れや食文化の衰退がエスカレートしつつあるなか、食に一家言もつ者たちが集った食サミット。共に考え、共に食事することで、食を見直し「“喰い”改める」ことの大切さを発信していこうというのが同サミットの趣旨だ。

「食とテクノロジー」をテーマとするセッションでは、予防医学を専門とする医学博士・石川善樹氏が司会役となり、まず各自が自己紹介した。

 一番手は「人工知能を使った料理の新しい可能性について研究しています」という、データサイエンティストの風間正弘氏。

風間氏「世界中のレシピをAIで分析し、AIが作ったレシピの料理を実際に食べてもらって、それがおいしいのかどうかを検証する『AIディナー会』を過去4回開催しています。最初は難しかったのですが、AIもしだいに進化してきまして、食べられる味になってきたのかなというところです」

 次に「2017年1月にパナソニックからシグマシクスに職場を変えましたが、ここ3年ぐらい食というテーマを継続しています。昨年から『スマートキッチンジャパン』というイベントを始めました」という田中宏隆氏。

田中氏「電子レンジのように料理の機会を人から奪っていくような従来の家電の進化とは異なり、テクノロジーが調理をさらに楽しくしたり、人をより幸せにすることが理想ですね」

 最後に、「長寿のMIKATA」編集長の山本左近。嚥下障害をもつ高齢者でも「本当においしい」と感じてもらえる介護食を分子調理のメソッドを用いて開発する世界初のプロジェクトに携わっている。当日は、その第一弾となる分子調理の技術でつくられた介護食の寿司(下写真参照)を来場者に提供した。

最期までおいしいものを食べてもらいたい

 分子調理とは、世界No.1レストランと呼ばれたエルブリで液体窒素による瞬間冷凍や亜酸化窒素によるムース化で有名になった調理法だが、本質的には食材や調理方法を科学的にアプローチするもの。そのメソッドを用いてお寿司を再構築したのが「にぎらな寿司」だ。

 介護食なので、ムース状だったり、お粥のようで噛まなくても食べられる形状をしているが、味は寿司そのもの。ワサビの辛みやガリの酸味も味わえる。
 咀しゃくや嚥下の問題で日本人が寿司を食べられなくなったとき、たとえ食感は違っても、その味をもう一度味わえるというのはありがたいことだろう。

左近「私たちの病院や施設には、今日この食事が最後になるかもしれない患者さんもいるんですね。最期の一食まで“美味しい”食事を食べてもらいたいとの思いから、患者さんに提供する食事をおいしくする取り組みを始めました。

 厚労省の病院満足度調査でも、入院患者さんの食事の満足度は相対的に低いため、全国的に課題になっていることでもあります。おいしさの指標をつくりたいという思いを持って取り組みを続け、たどり着いたのが分子調理だったんです。

 普段なかなか食べてくれない患者さんが分子調理でつくったこの「にぎらな寿司」をペロッと全部食べたのを見て、看護師さんが本当にびっくりしていました。僕としても大変うれしい出来事でした」

「今後は食事だけではなく、『どんな環境があれば人は最期の瞬間まで幸せにいられるのか』につなげていきたい」と左近。石川氏は「異なる分野から転身したからこそ見える部分というのがあると思うので、左近さんには医療・福祉の世界で、ぜひいろいろやっていただきたい」とエールを送った。

「”おいしい”とは何か?」を追究する

「そもそも“おいしい”って何なんでしょうね?」
 石川氏はこんな問いかけをした。それを受けて風間氏はこのような興味深い研究結果を報告した。
「西洋には、同じような香りの食材同士を組み合わせると、おいしいものができるというフードペアリング理論があります。ただ、AIにそれを学習させてつくった料理は、香りはいいけれど”おいしい”というのとはちょっと違う。一方、東洋では、日本のダシに代表される”うまみ”が重視されています。これにならって”うまみ”の要素を入れると、AIがつくる料理がおいしくなるということがわかってきました」

 AIを活用して、100年後のミシュランに載るであろう料理を導き出そうとしている風間氏。AIに分析させたところ、「生ハムとメロン」よりもおいしい組み合わせは、「生ハムとイチゴ」「生ハムと無花果」という興味深い結果も出たと教えてくれた。

田中氏「スマートキッチンにおいても、ユーザーの好みをリサーチするなど、どうやっておいしさにアプローチしていけばいいのか議論しているところです。
 そのリサーチ方法を含め、最近スマートキッチン界で特に論じられているのがインターフェースについてです。パソコンのように視覚を使って画面を操作するところから、音声合成または音声認識による聴覚の利用、さらに触覚、嗅覚……と発達してきましたが、それらを複数組み合わせた『マルチモーダル・インターフェース』が今後の主流になっていくのではないかと、そういう変化が起こってきています。

 そうなると、音声やタッチパネルで操作し、画面で食材や料理のビジュアル、レシピを伝えるといったマルチな使い方ができるようになっていく。ディスプレイも、より薄いものが開発されていき、やがては透明なもの、プロジェクターのように投影するタイプのもの、といった具合に技術が進化していくでしょうね」

左近「テクノロジーはヒトの機能を拡張し、AIはヒトの知能を拡張します。機能と知能が拡張していくなかで、僕らは何を中心に据えて食を考えれば良いかを考える必要がありますね」

石川氏「戦争で疲弊した日本人には栄養失調の改善が必要でした。でも、それから70年経って、過剰な栄養摂取による生活習慣病が問題となっています。じゃあ次はどうするというところで、この食サミットが始まったということだと思うんですね」

 石川氏はこう語り、今後、テクノロジーを使うにしても、AIを使うにしても、“人”を中心に据えながら食を考えていくことが大事だと伝えた。

 最後は、主催者である松嶋啓介氏の言葉によって締めくくられた。
「食材やレシピがどこから来たのかといった『過去』を大切にしながら、食を通して『未来』のことを考える機会を今後も設けたい」
 次回の食サミットは1月21、22日。回を重ねることにより、食の未来、ひいては人の未来がますます明るくなっていくことを期待したい。

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