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SAKON Dialogue : 001-2

超高齢社会における幸福とは何か

大方潤一郎(東京大学高齢社会総合研究機構・機構長)PART2
大方潤一郎
JUNICHIRO OKATA
東京大学 高齢社会総合研究機構(IOG) 機構長
東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻 教授
SAKON Dialogue : 001-2
超高齢社会における幸福とは何か
地域包括ケアシステムに代表される、新しい福祉、新しい地域社会の担い手とは? 豊橋市における高齢者ケアの拠点でもあるさわらびグループ/福祉村病院、そして、医療‥介護・福祉に携わる専門スタッフに期待される、新しい街づくりにおける役割とはなにか? その様々な活動を通じて地域交流を実践する同グループの取り組みを題材に、地域と福祉の新しい関係について、IOG機構長、大方潤一郎教授と考察してみます。
photos : Hitoshi Iwakiri
text : Keisuke Ueda

施設から地域へ拡がる、
「さわらび大学」という試み。

大方:他方、新しい福祉社会のデザインにとって、先端技術だけではなく、人間の知恵も重要な要素です。90歳社会の在り方を考えるための知恵ということでいえば、医療・介護・福祉の現場で働いている人たちの経験と知見は価値あるものだと思いますね。さわらびグループのスタッフの方々は、地域との交流活動も行っていると聞きましたが、どのような活動をされているのでしょう?

山本:夏祭りや秋の文化祭など、地域の方を施設にお招きするかたちでの交流を行っていますし、地域で教師の資格を持っている方が、私たちの施設で介護福祉士の候補生として学んでいる海外の留学生に日本語講師をしてくださったり、障がい者の方々に陶芸を教えてくれる地元の陶芸家の方など、様々な交流があります。そのなかでも力を入れている活動のひとつが「さわらび大学」という市民講座ですね。

大方:それはどういう内容なのですか?

山本:「さわらび大学」には、医療・福祉・一般の3つのカテゴリーがあります。医師や介護士といった私たちのスタッフが講師を勤めることもありますし、地域の自治会、行政、NPOとも連携していて、なにかしら専門知識がある地元の方に講師をお願いすることもあります。また、マスターコース制度を採用しており、単位を取得すれば受講者が講師になって、教える側にまわってもらうこともあります。
 ボランタリーな活動が、今後は、こうした形の地域交流は増えていくのではないかと思っています。豊橋のある集合団地の自治会の方にお聞きしたのですが、住民の定年退職者の男性の方々の多くが、定年退職後、自分たちは「3無し」になってしまったとおっしゃるんだそうです。友だち無し、仕事無し、やる気無しだと。そうなると引き篭もりがちになってしまいますし、健康にも良くないですよね。そうした方々に、例えば「さわらび大学」に来てもらえれば、友だちも増えるかもしれない。ボランティアではありますが役割が増えます。役割があれば、生きがいにつながるかもしれない。そうした環境を提供することで、「3無し」から「3有り」に変えられるかもしれないと思って、広く地域に参加を呼びかけています。
 今はまだ、施設にお越しいただく形ですが、受講された方、あるいは、参加された方が、ご自身がお住まいの地域の自治会で自発的なサロン会のような活動をしてくれるようになることが理想ですね。

多様な人間のチカラが、
「地域包括ケアシステム」をつくる。

大方:さわらびグループが地域社会の拠点の一つになるということですね。施設を拠点として、例えば、豊橋市全体のコミュニティ活動に、自然なかたちで関与していくということでしょう。実は、そうした活動が、最近良く言われている「地域包括ケアシステム」が次の段階として目指すところだったりします。要介護になる前の健康寿命をいかに延ばすか、つまり、介護保険が適用される前段階における健康管理を地域のなかで、包括的にケアしていきましょうという考え方ですが、それを実現するには、やはり拠点となる専門施設の存在は大きいですし、また、そこで働いている看護師さんや介護士さんの専門的知見は、地域社会の牽引役として貴重な存在です。

山本:僕も本当にそう思います。彼らは、地域における長寿の味方なんです。もちろん、仕事として働いているわけですが、私自身も含めて、その専門的知識を活かして地域の役に立ちたいと思っています。さわらびグループには1,100人の職員が働いていますが、看護や介護の仕事だけではなく、管理栄養士や環境整備士、事務職と様々な職種があります。普段は直接、介護の現場に関わらない人たちですが、実は、彼らも含めて、さわらびグループの全ての職員が「認知症サポーター」の受講者です。地域のなかで、なんらかの役割を持てることは、仕事を離れても、やりがいや生きがいにつながってくれたらと思いますね。

大方:そうしたプロのスタッフが施設から各地域に出かけていって、地域の様々な活動を支援する。職場で得た知識や技能、ノウハウを地域に拡げていく。さらに言えば、「さわらび大学」で学んだ人を、地域の担い手やリーダーとなるような人材として育成することができれば良いですよね。多種多様な人たちの力がないと、地域包括ケアシステムは成り立ちません。そういう点でも、さわらびグループの取り組みは先駆的だと思いますね。
どうでしょう? それらのノウハウを、例えば、さわらびメソッドとして体系的にまとめてみると良いのではないでしょうか。これからの日本の高齢社会デザインにとって価値のあるものだし、充分可能ですよ。

山本:それはやっていきたいですね。私たちが培ったノウハウをいかに他の地域に還元していくか? 私たちは、「みんなの力で、みんなの幸せを」という理念に基づき、「超高齢社会」をデザインしていきたいですね。

大方潤一郎
JUNICHIRO OKATA
東京大学 高齢社会総合研究機構(IOG) 機構長
東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻 教授
1954年川崎市に生まれ。東京大学都市工学科の学部・大学院(博士課程)を卒業。1996年・東京大学都市工学科助教授、99年から同教授。専門は都市計画、土地利用計画。2003年度からは、21世紀COE「都市空間の持続再生学の創出」のサブリーダーとして持続可能な都市地域空間の形成手法を探求。2009 年度からは、高齢社会総合研究機構(IOG)のメンバーとして、超高齢社会の住まい・まちづくりの研究に注力。2011年3.11以降は、岩手県大槌町等 での仮設まちづくりの支援、被災地の復興を通じた新たなコミュニティの形成に奮闘中。2013年4月から高齢社会総合研究機構・機構長を兼務。同年よりリーディング大学院「活力ある超高齢社会を共創するグローバルリーダー養成プログラム」プログラム・コーディネータ。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
医療法人さわらび会副理事長・統括本部長
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、 愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1 パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少 F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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