COLUMN

恋は
超高齢社会を救う

人生100年時代を幸せに彩る
恋愛と結婚
私たちの平均寿命は10年ごとに平均2~3年のペースで延びていることをご存じだろうか。世界の長寿化および新しい生き方について書かれたベストセラー『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社/リンダ・グラットン他・著)は、その根拠となるデータを示しつつ、「今後は2人に1人が100歳まで生きる」と述べている。一方、世界で最も速く超高齢社会に突入した日本で深刻化しているのが、誰にも看取られないまま最期を迎える孤独死の増加だ。仕事および家族との縁が断たれた人は孤立する可能性が高い。年齢に関わらず何度でも新たに縁を結び直す気持ちが、これからの私たちには必要ではないだろうか。
text : Michihiko Kato

高齢者の最大の敵は孤独地獄

 医療の進歩により、私たちは確実に長寿化・高齢化している。日本においては男女の平均寿命が84.2歳()と、現在も変わらず世界トップレベルの長寿国だ。
※WHO「世界保健統計2018」調べ。

「人生100年時代」という言葉が定着しつつあるが、実際には「100歳まで生きたい」と答える人はそう多くない。たとえば非正規労働者は収入や職場の人間関係が安定しづらく、結婚しない生活を選ぶ傾向にある。未婚の単身生活者、親と同居している未婚者などはいずれ独居高齢者になる可能性が高い。
 人とのつながりが弱いとコミュニティが構築しづらく、孤独死のリスクも高まる。100歳まで誰の手も借りずに自活できる自信がある人はどのくらいいるだろうか。

 国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018年推計)の「独居率の動向」によると、一般世帯に占める単独世帯の割合は、2015 年の34.5%から2040年には39.3%まで上昇が予想されるという。
 とりわけ高齢者の独居率上昇は激しく、65 歳以上の男性においては2015年の14.0%から2040 年の20.8%へ、女性は2015年の21.8%から2040年の24.5%まで上昇が見込まれるという。

「高齢者問題の本質は、孤独とどうつきあうかということにつきます」

 そう語るのは、1970年代から高齢者医療に取り組んできた認知症治療の第一人者のひとり、医療法人・社会福祉法人さわらび会(愛知県豊橋市)の理事長である山本孝之氏だ。

「年をとると、社会的に活動する範囲が狭くなります。そうするとおのずと家族だけが生きがいとなっていくものです。特に、年とともに生きる支えとしての連れ合いの重要性が増していきます。
 ですから私は心から老婚をすすめています。伴侶を得ることで、高齢者の最大の敵である孤独地獄から逃れられるだけでなく、コミュニケーションの活性化により認知症予防にもつながり、実生活のうえでもさまざまなメリットが生まれるからです。

 生きている限り、人と人が結ばれ、支え合い、助け合って生きていくのは一番自然な姿です。ただ当然、出会いは少ないですから、新しい愛を生み出し、育てるのは難しくなります。ですから、もしご両親のどちらかが亡くなったり、あるいは離婚されたときには、ご家族の方はすぐに親のためによい連れ合いを探し出す努力をしてもらいたいですね」(同氏)

「いい年して恋愛なんて」をアップデート

 厚生労働省の人口動態調査を調べてみると、65歳以上で結婚届けを出した男性は、2000年の2,977人から2010年は4,579人、2017年は5,445人と確実に増えている。


「まだまだ少数派ではありますが、2011年の震災をきっかけに、シニアと呼ばれる年代の方の入会が増えています」

 こう語るのは、50年以上にわたり中高年を対象に結婚情報サービスを提供している茜会のマネージャー・後藤ひろみさんだ。

「離婚されたり、パートナーに先立たれたりした後、どう生きるか。その価値観は、婚活をサポートしている私たちも急いで追いつこうとしているほど多様化しているように思います。
 積極的に出会いを求めるシニアの方は増えていますし、今は通い婚や週末婚、事実婚など、お互いの状況を尊重した上でネクストライフを考えられる時代になりました。事実婚や遺言書をテーマとした公正証書のつくり方セミナーも開催していますが、毎回好評です」(後藤さん)。

 人生100年時代において、生き方全般に対する考え方や価値観のアップデートは急務といえる。
 働き方については、15歳以上65歳未満の人口を指す「生産年齢人口」の減少を背景に労働力人口を増やそうと改革が推進されているが、その一方で、高齢者同士の恋愛や結婚については、相続や介護などシニアならではの問題もあり、まだまだ後ろ向きな意見も少なくない。

 しかし、前述の山本氏が推奨するように、年齢を気にせず良縁を探すことはまったく悪いことではない。「70歳を超えて結婚なんて……」「いい年をして恋愛なんて……」という考え方は、もはや古い。60歳を超えてから出会って結婚、それがお互いに初婚だったというご夫婦や、相続の問題を考慮してパートナーシップ契約で事実婚を選ぶご夫婦も増えているという。

 しかし、事実婚とはどのように行われるものなのだろうか。実際、2018年に公正証書を取り交わして事実婚をした、神奈川県・横浜市にお住まいの日吉勝さんと佳子さん(下写真)からお話を聞いた。

僕らの在り方がひとつの指針になったら

「私はバツ2ということもあり、友人からは『懲りないねぇ』などとも言われましたが人生は長い。このまま一人でいるより、気の合うパートナーといるほうが楽しい時間になると思いました」

 69歳のとき2度目の離婚を経験した勝さん(74歳)はこう語る。
 一方の佳子さん(71歳)は10年前に夫と死別。それまで義母と暮らしていたが、その義母が高齢者施設に入ることになり、出会いを求めて一念発起した。

「友人たちからは『その年で始めるのは婚活じゃなくて終活でしょ。いい人なんていないわよ』と反対されましたが、やってみないとわからないとポジティブに考えるようにしました。とはいえ、思うような相手にはなかなか出会えませんでしたね」(佳子さん)

「そろそろあきらめようか」と思っていた3年前、勝さんとの運命の出会いが訪れた。前述の「茜会」が開催するシニア専門のお見合いパーティーで佳子さんが一目惚れ。初デートはドライブだった。

「それからはお互いの家を行き来するようになりましてね。僕の家で過ごす時間が長くなってきた頃、急にどちらかが入院するようなことになってもお互いに困らないようにしたいと思って、どうすると良いか弁護士の先生に相談したんです」(勝さん)

 そして2018年、二人は「事実婚に関する契約公正証書」を取り交わし、一緒に暮らし始めた。佳子さんは、義母の存命中に籍を入れることはしたくないと考えている。その思いを勝さんが酌んで、事実婚を選んだという。


 なお、勝さんと佳子さんの「事実婚に関する契約公正証書」には、次のようなことが記されている。


・双方の自由な意思決定に基づき、これまでの氏を互いに保持しつつ、法律上の婚姻に相当する関係を築くことを目的として本契約を締結する。

・一方に医療行為が必要であると医師が認めるとき、他方がその医療行為について医師から説明(カルテの開示を含む)を受け、医療行為の同意をし、または治療方針の決定に同意するなど通常配偶者に与えられる権利の行使について相互に委任する。

・本契約の効力が生ずる前から有する財産及び本契約中に自己の名で得た得た財産(相続等により得た財産など)は、その特有財産(甲または乙の一方が単独で有する財産)とし、本契約の効力が生じている期間中に甲及び乙が協力して得た財産については、一方が自己の名で得た財産であっても、その共有に属するものとする。


 結婚に対する認識や価値観はそれぞれに異なるが、双方が合意できる公正証書を作成し、契約を取り交わせば、結婚をカスタマイズすることは可能だ。
 契約締結までに多少の困難はあるかもしれないが、苦楽を共有できる人の存在、ともに過ごす時間は、人生100年時代の終盤に彩りを添えるに違いない。

「先日、妻と一緒にゴルフに行ったんです。彼女は70歳を超えて、生まれて初めてコースに出たんですけどね。今度は、彼女の息子と奥さんと僕ら4人でコースをまわれたらと思っています」と、勝さんは嬉しそうに笑う。

「僕らの在り方が子どもたちのひとつの指針になってくれたら嬉しいですね。子どもには子どもの人生があるように、親には親の人生があります。死別にせよ、離婚にせよ、別の相手を選ぶことを応援してほしいと思います。
 だって、一人で飲むコーヒーよりも、二人で飲むコーヒーのほうがはるかにおいしいですから」(勝さん)

関連記事

よく読まれている記事

back to top