CROSS TALK
SAKON Dialogue : 012

人生100年時代の日本に
変革のウェーブを #1

佐々木裕子(株式会社チェンジウェーブ/株式会社リクシス・代表取締役社長CEO)
佐々木裕子
HIROKO SASAKI
株式会社チェンジウェーブ/
株式会社リクシス・代表取締役社長CEO
SAKON Dialogue : 012
人生100年時代の日本に
変革のウェーブを #1
人材育成の観点から企業を内側から変えていく「変革屋」。その名のもとに、企業や団体で働く「人」を内側から変えることに取り組んできた佐々木裕子さんが、2年前に介護関連の事業を行う新会社をたち上げた。そうした起業家としての側面や、自身の実体験としてのダブルケア(介護・子育て)などについて、山本左近が話を聞いた。佐々木さんは、寿命100年時代の生き方について提唱した『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』の著者であるリンダ・グラットン氏とも対談しているが、佐々木さんはどんな考えをもっているのか。そこには、わたしたちがどう未来と向き合い、変わってゆけばよいのかのヒントがあった。2回に分けてお送りする。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Keiko Sawada

これまでの社会概念を変えていく “挑戦”

山本左近(以下、左近):さっそくですが、佐々木さんは、東大法学部を出られて、日銀、マッキンゼー、それから起業というスーパーエリート街道を歩んでいて――。

佐々木裕子(以下、佐々木):そんな……(苦笑)。

左近:失礼だったらごめんなさい。僕から見たら、もうほんとに絵に描いたようなエリートなキャリアの持ち主なんです。まずは、その佐々木さんがチェンジウェーブという会社を起こしたきっかけをうかがえますか?

佐々木:チェンジウェーブは2009年に創業したんですが、ある大企業の社内変革をお手伝いする仕事をしていました。そこで、自分の仕事や会社に対して、あきらめをもっていた人たちが輝き始めるのを目の当たりにしたことが、起業のきっかけになりました。また、同じ頃に「女性の役員を育てたい」と頼まれて半年間のプログラムをもたせてもらったことも、起業するにあたって大きなきっかけになりました。

左近:そうだったんですね。「社会の常識的概念をくつがえしてやろう」というような活動なのかなと思っていました。

佐々木:もちろんそれもあります。多様な価値観をもった多様な人材に活躍してほしいと思っているのですが、その手前に、ものすごい”社会概念の呪縛”がある気がしています。「こうあらねばならない」という社会概念。性別や年齢、学歴もそうかもしれません。例えば、「働き方改革をすると売上が下がる」というのも、強い社会概念の1つです。

そこで「じゃあ、やってみましょう」と定時退社しても、売上が下がらないことを実証していく。実現できると思ってもらえることを仕掛けていくことで、ようやく人を動かすことができるんです。社会概念の呪縛がある限り、本当の意味で多様な人材が活躍することはできないので、それを解放したいと思っています。

左近:佐々木さんの新しい会社「リクシス」は、“人の物語”を創る事業と称するのに相応しいと知人がほめていましたが、こちらも同じ思いをもっているんでしょうか?

佐々木:チェンジウェーブもその点は全く同じです。

左近:チェンジウェーブにしてもリクシスにしても、「既成の概念を変えていく」ということが、佐々木さんの“挑戦”ということですね。

佐々木:その通りです。介護にも大きな既成概念があると思っています。それを解消していかないと、そこに生きている人が幸せでいられる高齢社会を創れないんじゃないかと思ってリクシスを始めました。
既成概念についてさらに言えば、企業が既成概念から抜け出せないとき、その裏側には“無意識のバイアス”が働いていることが多いんですね。人間の脳は、高速処理するためにパターン認識することに長けています。
ともすれば「男性のほうが能力的に優れている」「背の高い人のほうがリーダーにふさわしい」といったパターン認識をしがちだということです。年齢もそうですね。老いた人は頑固だというイメージがつきまとう。世界的にも、だいたい50代ぐらいから年齢差別が始まるといわれています。

左近:無意識のバイアスですか。

佐々木:無意識のうちにバイアスがかかり、判断に影響するという現象です。新しい仕事を探そうと思ったときに、20代より50代の人のほうが見つけにくい、という現象は何処でもよくみかけますが、よく考えてみると個人差もあるわけですから、本当の実力と違うバイアスが働いている可能性は高いですね。
チェンジウェーブでつくった「ANGLE」という管理者向けのチェックテストには、こういう質問があります。

「新規事業の責任者の採用を考えています。最高の実力をもつ人材です。採用しますか?」

その人物の年齢を変えて質問したところ、これに対して25歳、55歳、18歳という順でYESの回答が減っていくことがわかりました。それ以外の情報は何もないのに、年齢だけで差がついてしまうんです。こうした無意識の呪縛を解きたいと思っています。

年齢に関係なく自分自身が「できる」と思えるか

左近:佐々木さんは、「100年生きることを前提に人生を考えなければいけない」という考え方を世界に広めた『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』の著者、リンダ・グラットンさんと対談されていますね。人生100年時代といわれる中、その100年を設計するうえで、どんなことが大事だとお思いですか?

佐々木:一番大事なことは、いくつになろうと、自分には生き方を選択する力があると思えることじゃないでしょうか。自分自身が「できる」と思わないと動けませんよね。

左近:やはり、意志なんですね、そこは。

佐々木:なぜって、自分自身がそう思わないと何が起きると思いますか? 社会がそれを決めてしまうんです。例えば、60歳の人が定年になってハローワークに行くと、限られた種類の仕事しかないので、「こういう仕事をやるしかないんだな」ということになります。

ある地方でシニア人材の活用について話し合ったとき、その自治体の職員の方が「60歳で起業は無理でしょう」とおっしゃったんですね。無理だと思ったら、やはりそれはできません。でも、無理じゃないと思って行動している人には、周りの人がチャンスをくれます。そういうものだと思うんです。どうしてかというと、周りの人もその人の言動によってバイアスを崩されるからです。

左近:確かにそうですね。僕もいろいろな方にインタビューさせていただくなかで、より強く思うようになったことは、現状をより良くしていけるかどうかは本人次第ということです。

たとえば「SUPER GB(編集部注:当WEBマガジンのコーナー名)」に登場いただいた著名人の方々は、僕ら以上にバイタリティがあって活躍されている。誰も「自分には無理」とは思っていませんでした。現状を良くすることに、年齢は関係ないんだと確信しています。

佐々木:さすが、実際に活躍されている方々にたくさんお会いしている左近さんですね。どんどん変わっていく時代なので、「自分はわかっていない」と謙虚な姿勢で学び続けることが大事なのでしょうね。

左近:佐々木さんはリンダ・グラットンさんとの対談で、「子育てをしながら自分を磨く方法はあるか」という質問をされていましたね。佐々木さん自身はどうお考えですか。

佐々木:子育てをしながら自分を磨くというより、子育てそのものが自分を磨いてくれる、と最近は思っています。子どもからフィードバックをもらうことも多いんですね。

最近面白いと感じたことは、私が娘に「部屋を片付けなさい!」と叱ったら、「『〇〇しなさい!』って言わないで。そうじゃなくて、もうちょっとやる気が出るように言って!」と訴えてきたんです(笑)。

これって、けっこう本質的なテーマだと思いませんか。誰も命令されたくないですし、誰でも恐怖を感じたらやる気をなくしますよね。子どもに限らず、大人も、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんなそうだと気付かされました。

左近:お子さんはたしか5歳ですよね。それで、佐々木さんはどう答えたんですか?

佐々木:「そうだね」って(笑)。それから一緒に片付けました。自分は普通に言っているつもりでも、「怖い」と感じさせてしまったんだと反省して、「どうやったらやる気を出してもらえるのかな」と試行錯誤の毎日です。

左近:子どもを通じて自分が常に磨かれているんですね。では、「介護をしながら自分を磨く」ということについては、どうお考えですか?

佐々木:基本的には同じなんじゃないでしょうか。子育てをしていると、子どものケアと自分のやりたいことの両立をどうするかをすごく考えます。両立するためには、いろんな人に頼らなくてはいけません。頼るというのは、心理的にも気を遣ってしまいますし、難しく感じる面もありますが、教えてもらえることもたくさんあります。

介護も同じで、人に頼ることで新しいことを学んでいけるんじゃないかと思います。相手をケアすることそのものによって学べるし、人に頼ることによっても学べる。子育ても介護も、そうやって自分を磨いていくのだと思います。

左近:佐々木さんは、いつか自分がリタイアすることを考えたりしますか?

佐々木:それはないですね。逆に、100歳ぐらいまで現役で仕事できるとしたら何をやろう、ということはずっと考えています。娘に「大きくなったら何になりたい?」と毎日のように聞かれるので(笑)。

仕事としては、どこかの時点で研究者になりたいとも思っていますが、娘には小説家か映画監督と答えてます。

リクシスでも、ショートフィルムをつくったんです。「かぐや姫が翁を介護するために月から里帰りする」というストーリーで。映画って“人の物語”ですよね。映像は言葉では伝わりにくいことを表現できるし、感動を与えてくれます。
あえて結末はつくらないことにして、「みなさんはどう思いますか?」と問いかけていますので、介護についての考えを聞かせていただきたいと思います。
ちなみにこの作品の監督は私ではなくプロのクリエイターです。ですが、映画もいつか本当につくりたいですね。
後編に続く


LYXIS かぐや姫の仕事と介護の両立 vol.1
佐々木裕子
HIROKO SASAKI
株式会社チェンジウェーブ/
株式会社リクシス・代表取締役社長CEO
東京大学法学部卒。日本銀行を経て、マッキンゼーアンドカンパニーにて企業の経営変革プロジェクトに従事。2009年に株式会社チェンジウェーブを創立。さらに、介護情報サイト「KAIGO LAB(カイゴラボ)」を運営する酒井穣氏をビジネスパートナーとして、2016年に介護コンサルティング事業を行う株式会社リクシスを創立した。自らの出産と同時に託児サービス事業を立ち上げ、現在は小規模認可保育所を運営。2017年には愛知県在住の母親が要支援認定された。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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