COLUMN

シェアする暮らし

北京養老施設事情②
シェアリング・デザイン
中国の大都会ではいま急速に高齢化が進む。進行につれてシニアのための施設も急速に数を増やしている。「養老網」という施設紹介専門のインターネットサイトによれば、施設の料金ランクは7つに分類されており、月額500元~1000元(約9000円~18000円)から、最高ランクでは月額1万元(180000円)以上となっている。
そんななか北京東部、まだ造成されて間もないニュータウンの一角に2014年竣工、2015年入居開始、2年目に入ったばかりの「長友養老院」は、シングルルームで月額7000元(12600円)~と施設のなかでは高級ランクにあたる。278床に現在、56歳から99歳まで130人が暮らす4階建ての真新しいモダンなビルの特色は、言わば、「シェアハウス」型の設計デザインとコミュニティ運営にあった。
photos : Hitoshi Iwakiri
text : Junko Haraguchi & Keisuke Ueda

ニュータウンの将来像に欠かせない
地域拠点としての高齢者福祉施設

 長友養老院があるエリアではまだ建築中のマンションも建物も目立ち、街全体にフロンティア感がある。同施設の敷地は1万7000㎡と広大であり、隣接して大型の公園があり、ニュータウンらしい緑に囲まれた環境である。
 近年の北京におけるニュータウン構想では、幼稚園や小学校といった保育や教育施設だけでなく、高齢化社会を現実の課題として見据え、養老介護施設の建設をその開発計画に最初から組み込んでいるケースも目立ち始めている。
 長友養老院も、そんな都市開発の一翼を担う施設であるが、広々としたエントランスを含め、施設全体が開放感のある建築設計となっており、外に開かれた印象を強く感じさせる。これは、単に真新しいデザインというだけでなく、入所者のみならず、地域における高齢者福祉の拠点を目指すという、同施設の方向性を示しているようだ。案内してくれたのは、同施設の院長を務める李新蕾さん。彼女自身、まだ30歳と若いが、介護の専門学校を卒業して、別の施設で働いたのち、開業と同時に長友養老院に転職。介護の業界で10年目のベテランだ。

コミュニティを活性化させる
「広場」というスペース

 長友養老院の居住スペースの大きな特色と言えるのは、フロア全体が、ひとつのコミュニティとして設計されていること。具体的には、フロアの中心に大きな「広場」があり、その共有エリアの左右に2つの居住ユニットが配置されている。居住ユニットは30人~40人前後の単位で構成され、それぞれ居室のほかに、共有の食堂や美容室などを備えている。居室はもちろん個室だが、食堂や美容室などを利用する際、自然に入所者同士が顔を合わせる動線を意識したレイアウトになっていること、また、2、3階は吹き抜けになっており、フロアが違っても人の気配を感じさせてくれる。ここでもオープンな空間設計が貫かれているようだ。
 そして、共有エリアである大きな「広場」がこの施設の賑わいをつくりだしている。2階の広場はリハビリゾーン、3階の広場はレクリエーションゾーンになっているのだが、療法士を伴った治療だけでなく、入所者が気軽に立ち寄って自発的にトレーニングをする、あるいは、仲間同士で集まってビリヤードやダーツに興じたり、毛筆をふるう(これらも作業療法)など自発性と自主性を引き出すことに役立っているようだ。

北京の現状は「90・6・4」
「4」の施設の未来はこれから

 共有エリアがコミュニティを活性化させているという点で、近年、日本で増加している「シェアハウス」という住まい方に似ているなと思った。居室から、食堂やレクリエーション、リハビリのスペースが近く、自然に部屋から外に出たくなる動線。そこに立ち寄れば、コミュニケーションの機会も増える。実際、パブリックスペースや食堂に集う入所者たちや職員の笑顔も多い。
 そんな感想を院長の李さんにお話しすると「北京の養老介護施設の現状は、90・6・4ですから」とまずキーワードを教えられた。
 「90・6・4」は北京の民政部門が掲げる目標値で、「90%のシニアが在宅介護、6%は自宅と住まいに近い施設を往復しながらの介護、4%は専門の養老介護施設での体制とする」という指標である。そんななか4%部分で働く李院長は、施設にとっても、その入所者の家族にとっても大事なのは意識の変革ではないか、という。
 「中国のお年寄りがなぜこれほど自宅に固執するのか。それには施設に入ると自宅とはまったく違う生活になってしまう、という恐れがあるからです。ならば、施設はお年寄りにとってより自宅に近いアットホームな場を目指すことです」。

心を通わせるための
シェアリング型の空間設計

 入所者がこの場を家と思ってくれることが一番の目標だと、彼女はいう。
 「それに、施設が家のようであれば、ご家族にとっても安心できるでしょう?ご自身は仕事を続けていても、誰かが見守ってくれる家に大切な家族がいるという安心感。それは、地域の人たちに対しても同じで、私たちは常にオープンであるべきですし、地域から必要とされる存在でありたいのです」。
 良い家は、人が集まり、また、人を呼び込む。李さんは、長友養老院のビジョンを語ってくれたわけだが、私には、それがこれからの暮らしを指しているようにも聞こえた。シェアハウス、あるいは、コミュニティハウスの特長は、閉じながら開くというもの。人が行き交う動線や共有エリアを空間内に上手に内包することで、自然な交流と賑わいを生み出そうとするものだが、長友養老院にも、そんなシェリング・デザインが施されているようだった。
「お年寄りが大好きですし、またこの仕事はお年寄りと接することで、人を理解し、尊重することを学びます。そうして心が通じ合えた時、とてもやりがいを感じます」と院長の李さんは語ってくれた。

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