COLUMN

「若い脳」は、
つくれる。

健やかな脳を保つための

最新脳トレ体験
スーパースターと呼ばれるトップアスリートでも加齢による肉体の衰えは隠せない。同時に老化は当然脳にも及ぶ。私たちだって同様だ。肉体の下降線を緩やかにするためには毎日の筋力トレーニングが効果的だが、脳の衰えに対しては対策を講じているだろうか。多くの人は脳の衰えは不可逆的だと決めつけている。あるいは諦めている。しかし何歳になっても脳は鍛え直すことができ、鍛えるほど脳の健康は維持できる。その効果を裏付けるべく、昨年都内に誕生したのが脳トレーニングジム『ブレインフィットネス®』だ。超高齢化と認知症社会を見据えたプログラムを考案・実践している類例のないトレーニングジムなのである。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Masaki Takahashi

ますます長くなる人生に備え、脳も鍛える

 人生100年時代。超高齢化社会へのシフトは確実に、そして加速的に進んでいる。ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授の著書『ライフシフト 100年時代の戦略』によれば、“平均寿命がこの200年、10年に約2年のペースで伸び続けている”。端的に言うと現在50歳以下の多くが100歳まで、60歳の人は90歳まで生きる可能性が予測されている。老後はますます長くなり、それに伴って「認知症社会」への移り変わりも現実的に目の前に迫ってきているのだ。
 そんな折に先行き不安なニュースが2016年暮れに飛び込んできた。米製薬大手のイーライ・リリー社が、初期のアルツハイマー型認知症向け新薬「ソラネズマブ」の製品化を断念した。医療業界や患者からの期待が高かったが、臨床試験で有効な結果が得られなかったことがその理由だ。やはり認知症予防薬の開発は夢のまた夢なのだろうか。
 ただし暗いニュースばかりではない。アルツハイマー型認知症を発症する要因として、脳内に蓄積されるアミロイドβと呼ばれるタンパク質が引き金になっているという仮説が強まる中、JST戦略的創造研究推進事業において東京大学の研究グループが、脳内のアミロイドβを減少させる光触媒を開発した。2018年3月に発表されたばかりのニュースである。
 こうした医療科学の発展や進歩は、一般人からすれば進捗を見守るしかない。とはいえ、ただ指をくわえて新薬の開発を待っているだけでいいのだろうか。個人レベルで認知症発症リスクを低減させる何らかの予防策を講じられないものだろうか。
 その迷いや疑問に対するひとつの解答ともいえる画期的な施設が東京都内にあった。それが、昨年4月にオープンした脳トレーニングジム『ブレインフィットネス®』である。肉体ではなく脳を鍛えるというアプローチが非常に斬新で興味深い。
 運営を担う株式会社イノベイジ代表の髙山雅行氏によれば、「人生100年時代に脳の健康は必要不可欠。いつまでも健やかな脳を保つため、東北大学加齢医学研究所との共同研究により認知機能の維持向上に有効とされるエビデンスを多数分析し、医師や管理栄養士らと各種トレーニングプログラムを考案、開発しました」。
 ブレインフィットネス®では、脳を「鍛える」「休める」をコンセプトに、食事指導や睡眠指導など脳の健康によい生活習慣のアドバイスのほか、トレーナーと脳トレや運動・マインドフルネスを実践していく。トレーニングと聞くと仰々しい印象があるかもしれないが、実際に行うのはやさしいルールのゲームである。しかし、本当にゲームで脳が鍛えられるのだろうか? ブレインフィットネス®で採用している脳トレゲームは、2017年にオーストラリアで発表された世界の脳トレ製品を精査する研究において、最も高いレベル1の評価を得た脳トレプログラム「CogniFit(コグニフィット)」など、信頼性の高いゲームを選定し、導入しているという。そこで、当サイト「長寿のMIKATA」編集長・山本左近が、2種類の脳トレゲームと、脳の休息とストレス緩和を促すマインドフルネスを体験した。

確かなエビデンスに基づいた脳トレメニュー

 最初に体験したのが、脳トレゲーム「CogniFit(コグニフィット)」の中の「記号つなげ」(上写真)。ルールは単純明快。初めに3つの記号が短時間表示され、次の画面で3つの記号が組み合わさった4つのパターンが提示される。その中から初めに見た正しい組み合わせを選ぶというもので、視覚的短期記憶、作業記憶が鍛えられるゲームだ。しかもバイクマシンを漕ぎながら行う。国立長寿医療研究センターの研究では、知的刺激と反復的な有酸素運動の組み合わせは、脳の萎縮を抑えて記憶力を改善できると報告されている。こうしたデュアルタスクは認知機能維持に有効とされる研究もあるため、信頼性の確度はかなり高いといえよう。
 次に挑戦したのが「Nバック課題」(上写真)。タブレットの画面に順次表示される十字、星、四角などの図形の中から、指定された図形の数を記憶していき、N回前に表示された図形の個数を答えるゲーム。例えば十字が順番に6個、8個、3個、9個、4個と表示されたのち、3つ前の画面に出た図形の個数を聞かれたら8と答えなければならない。4つ前なら6と答えなければならない。この作業が連続的にテンポよく行われるため、作業記憶を鍛えるのに有効といわれている。ゲームは1分行い、1分休憩、また1分行って1分休憩を繰り返す。ゲーム中はプレイヤーの頭に脳血流を測定するデバイスが装着される。このデバイスは脳トレ中の脳の活動状況を血流量の変動を近赤外光で測定し、グラフ化することで可視化できる(下写真)。血流量がアップしていると前頭前野が活性し、脳が使われていることが目に見えてわかるのだ。
 「ただし現段階では、脳血流の増加と認知機能の維持との関連については諸説あります。人間にとって重要な機能の多くを担う前頭葉は加齢の影響を受けやすいこと、また脳の血流低下は認知機能低下や脳萎縮に繋がることから、前頭前野の賦活(血流アップ)が重要と考えて実践しています。今後のエビデンスに注目する必要があります」(前出・髙山氏)。少なくともNバック課題を行うと、脳が活性し、脳を鍛える一助になっていることだけは確かなようだ(図A参照)。
 最後に体験したのが「マインドフルネス」(下写真)。自分の呼吸や聞こえる音など、今ここにある1点に集中することで脳を休息させ、ストレスを緩和する瞑想だ。実は慢性的なストレスはアルツハイマー型を含めた認知症の発症に影響を与えることが判明している。つまりマインドフルネスは認知症予防に効果がのぞめる。ブレインフィットネス®では、マインドフルネス中の脳波をデバイスで測定。脳の活動状態を3段階のグラフで可視化することで、集中状態を保つスキルが早く身につくのだ(図B参照)。
 山本左近は、スタート時こそ雑音でやや集中が乱れたが、そのあとは集中状態を完璧に保ってみせた。ほとんどの人は、初回ではなかなか集中力を保てないそうだ。
 ブレインフィットネス®では現在、脳の健康を保ち認知症予防に寄与する「ブレインヘルスプラン」と、脳のストレスケアや休息術を学ぶ「ブレインレストプラン」を展開している。意外にもブレインヘルスプランのメインターゲットは45歳以上なのだとか。
 「認知症は高齢をイメージしがちですが、私たちは40~60代からのケアや予防を推奨しています」(前出・髙山氏)。確かに認知症の引き金といわれるアミロイドβの蓄積は、早い人では30代40代から始まることがわかってきている。早めに対策を講じるのは決して間違いではなく、むしろ望ましい。ブレインフィットネス®は脳の健康維持を実現するばかりか、脳の健康によい生活習慣や認知症予防への関心や姿勢を学ぶきっかけも与えてくれる。認知症など遠い未来の話だと思わずに、今からでも向き合うことが大切だ。転ばぬ先の杖を持つのは早いほどいい。

Innovage,Inc.

株式会社イノベイジ

日本が抱える社会課題を解決するため、脳科学とブレインテックを活用したサービスを創造。脳の疲労やストレスを緩和したり、脳の健康に良い生活習慣を会得するトレーニングを提供する脳トレーニングジム「ブレインフィットネス®」の運営、ブレインフィットネスのノウハウを活用し、脳の健康ケアと就労スキルを学ぶ、新しい障害者就労移行支援「ニューロワークス」の運営、その他脳科学・ブレインテックを活用したサービスの開発に取り組んでいる。

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