CROSS TALK
SAKON Dialogue : 010

ロコモ予防と挑戦心の維持が
幸せな長寿につながる#1

いとうまい子(タレント/女優)
いとうまい子
MAIKO ITO
タレント/女優
SAKON Dialogue : 010
ロコモ予防と挑戦心の維持が
幸せな長寿につながる#1
老化が進むにつれ、誰もが避けて通れないことのひとつが筋力の衰えだ。とりわけ近年は、骨や筋力などの衰えによる「ロコモ」ことロコモティブシンドローム(※1)が問題視されている。今回ご登場いただくのは、タレント/女優として活躍するいとうまい子さん。芸能活動のかたわら、早稲田大学大学院の人間科学研究科博士課程に在学するいとうさんは、最新のロボット工学を活かして超高齢社会の問題解決に挑んでいるひとりである。いとうさん自身が開発したロコモティブシンドローム予防ロボット「ロコピョン」の機能や、日本の予防医学における問題について『長寿のMIKATA』編集長・山本左近が話を聞いた。2回に分けてお送りする。
※1 骨、関節、靭帯、筋肉、腱など身体を支える運動器に障害をきたし、移動や立ち座り等の移動機能が困難になる状態。運動器症候群。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Yuichiro Nakada

いくつになっても自分の足で歩くために

山本左近(以下、左近):同じ愛知県出身であり介護への関心も高い、まい子さんにご登場いただけてうれしいです。早速ですが、早稲田大学大学院で高齢者のためのロボットを開発するに至ったきっかけ、経緯を教えていただけますか。

いとうまい子(以下、いとう):芸能界で関わった周囲の人に恩返しするきっかけが見つかるかもしれないと思って、早稲田大学に入学しました。そこでゼミを選ぶとき、もともと希望していた予防医学の先生が定年退職されたので、予防医学と今後コラボできる可能性のあるロボット工学のゼミの門を叩きました。そのゼミで初めて耳にした「ロコモティブシンドローム」が日本にとってはすごく重要なことだと知ったのが、研究を始めたきっかけです。要は全て、偶然ですね(笑)。

左近:ロコモティブシンドロームというと糖尿病、生活習慣病、認知症の起因のリスクを高めるということで、放っておくと非常に大変なことになります。重い病気や障害につながる原因のひとつですね。

いとう:5年前に癌で亡くなった私の父もそうで、あっという間に歩けなくなりました。トイレに行くにも、車椅子にもひとりで乗れなくなってしまって。あるとき、父の入院先で、父がトイレにいる間、ベッドにゴロンと横になってみたんです。そうしたら、目に入るのは無機質な白い天井だけ。このまま起き上がれずに何年も過ごすのは、すごく切ないなって思いました。
痛くなったら先生が注射を打って治してくれるっていう受け身の発想では、あっという間に歩けなくなったり、寝たきりになってしまいます。そういうことを知ってもらえたらいいなというのが私の希望です。

左近:お父さんの経験から、ロコモティブシンドロームに対して非常に強い使命というか危機感を覚えられて、そこを原点としたアウトプットのひとつが、介護ロボット「ロコピョン」だったわけですね。

いとう:うさぎってピョンピョンと元気に跳ぶでしょう? 足腰が丈夫なイメージがあるので、うさぎにしました。1日に3回、ロコピョンが声をかけるんです。使用する人がロコピョンの前に立つまで呼び続けて、その後、スクワットをうながします。
介護の世界では、理学療法士さんが行うロコモコール(※2)というものがあって、筋力維持のため週に2、3回電話をかけるそうです。電話をしながら、高齢者の方にスクワットをしていただくんですね。この方法は効果が認められたということで推奨されていますから、ロコモコールのように励ましてくれるロボットが家にあったらいいかなと思いました。

※2 定期的なロコモ予防運動を応援するための電話。


左近:その視点は素晴らしいですね。ロコモティブシンドロームを防ぎ、何歳になってもご自身の足で歩いて、人生を楽しんでほしいという思いがあるんですね。ロコピョンが一家に1台あるのが理想ですよね。

いとう:そうですね。

いつまでも興味、好奇心を持ち続ける

いとう:私たちの下肢筋力は20歳がピークです。特に女性は50〜60代に閉経を迎えると一気に衰えていきます。若い人は「脚が細くてキレイなほうがいいわ」と言うかもしれないですけど、それがいかに危険かを、みんなに知ってほしいと思います。
今、小学生の間でもロコモティブシンドロームが増えているんですよね。だからお子さんにはもっといっぱい動いてもらって、運動してもらうことが大事だと思っています。

左近:昔のように、活発に動いたり走ったりしている子どもたちが減っているようですね。

いとう:そうですね。子どものうちにいっぱい外で遊んで、筋力をつけてほしいですね。50歳過ぎると疲れが抜けきらない人、老け込む人が結構増えていますよね。筋力による老化スピードは70、80歳になるとさらに大きく差がつくと思うんです。
やはり元気な身体と人生を楽しむ気持ち、それを持てるか持てないかだと思います。人生100年時代ですから50歳でようやく折り返し、まだ半分あるんです。だからできる限り、日常的に健康づくりをすることが大事ですね。あとはいろんなことに興味を持ち続ける、好奇心を持ち続けること。

左近:そうですね、僕も年齢にかかわらず、常に興味や好奇心を持ち続け、挑戦し続けることが、幸せに生きるためには大事だと思っています。

いとう:新しいことに取り組まないのは理由があるわけではなく、「なんとなく」できないという人が多いようですね。でも、そこがすごく大きな差で。
今、私が考えているのは、どうやったら高齢者の方にモチベーションを持ってもらえるか、好奇心を持たせてあげられるかということです。それがあるかないかが大きく、その先までずっと続けられるかやめてしまうかが分かれてくる気がします。

左近:そのモチベーションを持っていただくためには、どうしたらいいとお考えですか?

いとう:人は、経験値が豊富になっていくと、ある時点から現状維持によって自分をガードするようになるそうです。モチベーションを持つためには、そうしたガードを取っ払える気持ちが必要だと思います。

たとえば私が大学に行ったと聞くと、「すごいですね。私もやりたいとは思うんですけど、でもねー、そこから先にいけないんですよ」という方が多いんです。
実際ね、私の歳でテスト受けるとか、めちゃめちゃ大変です(笑)。でも、そんな中でもなんとか頑張って、やり遂げて、クリアできた!というときに、脳内にたくさんの満足物質が放出されます。その快感がたまらなくて。つらいけど、またその快感を欲してしまうほどです。それがたぶん、次へ次へと進むモチベーションになる。
だから、その体験を1回でもしたことがある人は、あれをもう1回、今日ももう1回と求めますよね。でもクリアしたことがないと、その先の快感や喜びを知らないから大変だった記憶しかない。「大変だったから、もう挑戦しない」と心がガードしてしまうんだと思うんですよね。

左近:それは、高齢者に限らず若い世代も一緒だと思いますね。僕は元々レーシングドライバーで、F-1という世界で生きていて、本当につらいことばかりでした。
でも、ゴールでいいチェッカーフラッグを受けた瞬間の快感、「自分の思い通りの走りができた」というあの一瞬、あれが忘れられなかったんです。
日々のつらいトレーニングも、今振り返れば、あんなにつらいことよくやったなと思います。でもそれをつらいと思わずに、次の目標に向かって、次はこうやって攻めようという思いが常にありました。

いとう:そういった快感を子どもの頃に経験しないまま大人になっていくと、あきらめがちになりますよね。
あんまり大きなことから始めず、小さなことから始めるといいですよね。達成感を味わいながらどんどんクリアしていくと、自然と越えたくなる壁が高くなっていきます。達成するほどに楽しみも増えていくと思いますよ。

左近:達成する喜びを感じてもらうために、小さなことから始めてみる。まい子さんは高齢者に対してロコピョンを開発されたわけですが、そのメッセージは子どもから大人まで全世代に伝えたいですね。

いとう: そうそう、そうですね。

あ、そういえば、50〜60代くらいで『Pokémon GO』をやっている方がすごく多いのをご存じですか? 私もゲームやるのは初めてだったのですが、ハマっていまして。ポケモンを見つけるために、積極的に街を歩いている私くらいの年代の方がいっぱいいます。これってすごいことだと思いませんか。
だから、これから高齢に向かう50〜60代の方は足腰が元気かもしれない(笑)。『Pokémon GO』はロコモ予防にものすごく貢献しているんじゃないでしょうか。

左近:ぜひ今度は『Pokémon GO』みたいなアプリを開発してください。レアポケモンのように「ここにしか出現しない、いとうまい子」「AR(※3)いとうまい子と一緒にスクワット!」というような遊び心満載のアプリ(笑)。

※3 Augmented Reality(オーグメンテッド・リアリティ)の略。現実の背景の中にポケモンが現れるなど『Pokémon GO』にも活用された技術。


いとう:ARまい子は5回スクワットしないと出てこないぞ、みたいな(笑)。

左近:いいですよね、そういう仕組みがあると。ただそこに行けば捕まえられるわけじゃなく、さらにもうひとつ次のチャレンジがあると。それ、めちゃめちゃ面白いですね。

いとう:ゲーム開発をするのは難しいですけど、『Pokémon GO』とコラボできたらいいかもしれませんね。まだまだ、やりたいことがいっぱいあるので、いろいろ挑戦していきます。

左近:素晴らしいですね、ぜひ実現してください。
#2に続く
いとうまい子
MAIKO ITO
タレント/女優
1964年、愛知県名古屋市生まれ。1982年「ミスマガジン」コンテストで初代グランプリを受賞し、アイドル歌手としてデビュー。以来、ドラマ、映画、情報・バラエティー番組など多方面で活躍中。芸能生活の傍ら2010年に早稲田大学(e-school)入学。2014年卒業後、大学院へ進学。2016年、修士課程修了。同年4月から博士後期課程へ進学。ロコモティブシンドロームを予防するロボットの研究と同時にロコモ予防の講演、トークショーなど、超高齢社会が抱える問題解決に向けた活動も精力的に行っている。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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