CROSS TALK
SAKON Dialogue : 011
「つらい時期」を越えると
違う世界が待っている#2
いとうまい子(タレント/女優)
いとうまい子
MAIKO ITO
タレント/女優
SAKON Dialogue : 011
「つらい時期」を越えると
違う世界が待っている#2
違う世界が待っている#2
前回(#1参照)に続き、いとうまい子さんと山本左近とのCROSS TALKをお届けする。人間誰しも長く生きていれば、スランプや困難の壁に直面する。壁に直面したときに問われるのが、そこまでに培った経験や哲学、精神力だ。それは決して一朝一夕で築けるものではない。日々明るい笑顔を振りまき、悩みとは無縁に見えるいとうまい子さんも、スランプや壁に直面したことがあるという。これから人生100年時代を迎える私たちにとって、人生を前向きに生きるための発想や意識改革は重要だ。ひいてはそれが明るい超高齢社会をつくることにもつながっていく。今回はいとうさんの「壁との対峙の仕方」から、そのヒントを山本左近が探った。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Yuichiro Nakada
「自分」を認めたら生き方が変わる
山本左近(以下、左近):まい子さんは明るい笑顔が印象的で、いつも周りを幸せにしている方だと思っているのですが、非常に厳しい芸能生活の中で35年もやってこられて、その中で当然悩みもあったかと思います。そういうときでも、なにか気づきや得るものがあるからこそ、これほどの息の長いご活躍ができているのでしょうか?
いとうまい子(以下、いとう):それはすごくありますね。つらかった時期は、よくなるどころか、どんどんつらくなるようなループに入っていたこともあります。
それがあるとき、「アトム」という犬を飼うことになって、その子を見ていたら「もう、生きているだけで素晴らしい」と思った瞬間があったんです。
もともとは兄の犬で、本当は私が飼う予定ではありませんでした。兄の奥さんが妊娠して、つわりが苦しい時期に預かっただけだったんです。でも、最終的にうちの子になりました。
犬はお世辞も言わないですし、高価な洋服も着ません。でも、生き生きとしていて素晴らしいなと思ったんです。「ああ、生きるってこういうことだ。私が今やっていることは全く間違えている、逆の方向に行っている」ということに気がついたんですよね。「私は私の生きたいように生きよう」と、そのとき思いました。
人から指摘されたこともあり、役者として童顔であることを気にしていた時期があったのですが、大人っぽくするのもやめたんです。「しょうがない。この顔を持って生まれてきたのだから、この顔で勝負するしかない。全部やめてそれでもだめだったら、この業界は向いてないのだからやめればいい」と思い、そこから全部捨てました。名前も漢字からひらがなに変えました。
そうしたら違う仕事がくるようになりました。「こういうことなんだ、生きるって」と思いましたね。泥沼の中でもがいているときは、しがみついてなんとかしようとしますが、自分を認めて、自分は本来こうであるし、これ以外はないってことに気がつけると、上も見ないし下も見ない、自分らしくなれるということに気がつきました。
左近:積み上げてきたものを全部壊してフラットにしてしまう。それは、なかなか簡単にできることじゃないと思うのですが、そのきっかけは犬だったんですね。
いとう:私のところにアトムがきたのも、「生きるってこういうことだよ、よく見なさい」と私に提示するためだったんじゃないかと。人生どんなことでも意味があると思うんです。
それに世の中、全てうまくいっている人はいなくて、必ず何かしらあるし、スランプもあります。もし神様がいるとするなら、それは神様から与えられた試練で、「はい、あなたの目の前に壁を出しました。どうする? どっちをやる? 壁を越えないのもありだよ、乗り越えるのもありだよ。どっちか好きなほうを選んでいいよ」といつも言われている気がするんです。
乗り越えた人はステップが上がる。乗り越えられなかった人はずっとそこにいる。だから、つらいことはステップアップするための準備なのではないかなと思っています。
左近:僕が常々思っているのは、思春期の頃にとっての毎日は学校がすべて、その世界で生きていけないことは本当に苦しいということです。
僕は19歳のときにレースでヨーロッパに行ったのですが、レースで勝とうと思ってヨーロッパに行ったのに、何もできなくて、どんどんどんどん悪いサイクルに入っていきました。もう人生何も楽しいことがない、つらいことしかない時代だったので、本当によく死ななかったなと今でも思います。
学校を息苦しく感じている子達に、今のまい子さんの話を伝えられることができたら、「今はつらくても、自分らしく生きられる術が絶対どこかにある」と感じてもらえると思います。
いとう:ありますよ。本当にある。でも、「今、この現在」がその人にとっては人生の最新で、常にそこまで生きてきた中での考えじゃないですか。だから、若い子達はそこに囚われてしまうのですよね。それはすごく気の毒。大人になってから思えば、どうってことないことなのに。
本当に、ものの考え方ひとつで世界は変わると思います。人間の身体には60兆個(※1)の細胞があって、その細胞1個の中に膨大な数のDNA、染色体があり、地球上にいるノーベル賞級の科学者が全員集まっても染色体1本作れません。それを私達は60兆個も持っている奇跡の生き物だと思ったら、なんでもできるのではないでしょうか。
※1 37兆個という学説もあり。
私は心臓を止めたくても止められない。でも勝手に動いてくれるこの身体を持っていること自体、奇跡の存在だと思います。ものすごく大きなことを成し遂げられなくても、小さなことでも「ありがとう」と言ってもらえると、それだけでもうれしいと思えるような日々に変わっていくと思うんです。
いとうまい子(以下、いとう):それはすごくありますね。つらかった時期は、よくなるどころか、どんどんつらくなるようなループに入っていたこともあります。
それがあるとき、「アトム」という犬を飼うことになって、その子を見ていたら「もう、生きているだけで素晴らしい」と思った瞬間があったんです。
もともとは兄の犬で、本当は私が飼う予定ではありませんでした。兄の奥さんが妊娠して、つわりが苦しい時期に預かっただけだったんです。でも、最終的にうちの子になりました。
犬はお世辞も言わないですし、高価な洋服も着ません。でも、生き生きとしていて素晴らしいなと思ったんです。「ああ、生きるってこういうことだ。私が今やっていることは全く間違えている、逆の方向に行っている」ということに気がついたんですよね。「私は私の生きたいように生きよう」と、そのとき思いました。
人から指摘されたこともあり、役者として童顔であることを気にしていた時期があったのですが、大人っぽくするのもやめたんです。「しょうがない。この顔を持って生まれてきたのだから、この顔で勝負するしかない。全部やめてそれでもだめだったら、この業界は向いてないのだからやめればいい」と思い、そこから全部捨てました。名前も漢字からひらがなに変えました。
そうしたら違う仕事がくるようになりました。「こういうことなんだ、生きるって」と思いましたね。泥沼の中でもがいているときは、しがみついてなんとかしようとしますが、自分を認めて、自分は本来こうであるし、これ以外はないってことに気がつけると、上も見ないし下も見ない、自分らしくなれるということに気がつきました。
左近:積み上げてきたものを全部壊してフラットにしてしまう。それは、なかなか簡単にできることじゃないと思うのですが、そのきっかけは犬だったんですね。
いとう:私のところにアトムがきたのも、「生きるってこういうことだよ、よく見なさい」と私に提示するためだったんじゃないかと。人生どんなことでも意味があると思うんです。
それに世の中、全てうまくいっている人はいなくて、必ず何かしらあるし、スランプもあります。もし神様がいるとするなら、それは神様から与えられた試練で、「はい、あなたの目の前に壁を出しました。どうする? どっちをやる? 壁を越えないのもありだよ、乗り越えるのもありだよ。どっちか好きなほうを選んでいいよ」といつも言われている気がするんです。
乗り越えた人はステップが上がる。乗り越えられなかった人はずっとそこにいる。だから、つらいことはステップアップするための準備なのではないかなと思っています。
左近:僕が常々思っているのは、思春期の頃にとっての毎日は学校がすべて、その世界で生きていけないことは本当に苦しいということです。
僕は19歳のときにレースでヨーロッパに行ったのですが、レースで勝とうと思ってヨーロッパに行ったのに、何もできなくて、どんどんどんどん悪いサイクルに入っていきました。もう人生何も楽しいことがない、つらいことしかない時代だったので、本当によく死ななかったなと今でも思います。
学校を息苦しく感じている子達に、今のまい子さんの話を伝えられることができたら、「今はつらくても、自分らしく生きられる術が絶対どこかにある」と感じてもらえると思います。
いとう:ありますよ。本当にある。でも、「今、この現在」がその人にとっては人生の最新で、常にそこまで生きてきた中での考えじゃないですか。だから、若い子達はそこに囚われてしまうのですよね。それはすごく気の毒。大人になってから思えば、どうってことないことなのに。
本当に、ものの考え方ひとつで世界は変わると思います。人間の身体には60兆個(※1)の細胞があって、その細胞1個の中に膨大な数のDNA、染色体があり、地球上にいるノーベル賞級の科学者が全員集まっても染色体1本作れません。それを私達は60兆個も持っている奇跡の生き物だと思ったら、なんでもできるのではないでしょうか。
※1 37兆個という学説もあり。
私は心臓を止めたくても止められない。でも勝手に動いてくれるこの身体を持っていること自体、奇跡の存在だと思います。ものすごく大きなことを成し遂げられなくても、小さなことでも「ありがとう」と言ってもらえると、それだけでもうれしいと思えるような日々に変わっていくと思うんです。
感謝の言葉を胸に高い壁を越える
左近:先ほど、「神様がいたら」という話をされましたが、非常に共感しました。神様はあなたが乗り越えられない壁をあなたの前に作らない。今は苦しい、でもそれは必ずあなたが乗り越えられるものだから頑張りなさいということですね。
いとう:ギリギリまで頑張ればちょっとずつ越えられる壁なんですよね。低すぎる壁もこないし、高すぎる壁もこない。ギリギリ死なない程度まで頑張ることができれば、乗り越えられる。そうすると違う世界にいける壁が、毎回毎回きていると思います。それはすべての人にきていると思っています。
だから、「今がつらい」と思っている人に伝えたいのは、どんなにつらいと感じていても、他の人から見たらすごく低い壁かもしれないということ。でもね、本人から見ればギリギリの高い壁ですよね。だから、乗り越えれば必ずいいことがあるということだけは知ってもらいたいです。みんなそれぞれ高さが違います。
左近:自分の壁を直視して、それを人と比べないことが大事ですよね。
いとう:そうですね。
左近:壁に直面したとき、これを避けるのか、上にのぼり続けるのかということを問い続ける、行動し続けるということですね。
いとう:乗り越えないときというのは、いろいろな条件とか、自分の不遇を友達のせい、学校のせい、国のせい、政治のせいとか、なんでも他のせいにします。他のせいにすると、絶対に乗り越える気が起こらないですよね。なぜなら自分が悪くないんだから。
「なんかつらいな」と思っているって、たぶん、その先にいいことがあることを知らないと思うんです。そんなときこそ、たとえば「こんな勝手に動く心臓を持っている私、ありがとう」と感謝してみる。
左近:心臓に感謝!
いとう:感謝は魔法の言葉だと思います。感謝すると、気持ちが変わっていきます。感謝し続けていると、いろいろなことがありがたい、目の前に来た壁でさえも、ちょっと頑張ってみようかなって気になっていくような気がします。
いろいろな不遇に直面していると、なかなか感謝の気持ちを持てないし、つらい状況から抜け出せないこともあると思います。そんなとき、嘘でも、どんなことでもいいです。ちょっとケガをして、そのケガが治っただけでも「私の身体はすごい。あぁ、こんな身体を持てたことに感謝、ありがとう」と感謝してみる。
親に感謝できなくてもいいんです。感謝したくなかったら、他の何かに感謝してみるといいんじゃないかな。星が見える目を持てたことでもいい。なにかひとつでも自分の中に感謝できるものを見つけて、感謝していくと、乗り越えてみようかなという気持ちになるのではないかなと思います。
左近:とても前向きになれる言葉ですね。最後に、まい子さんが直近でチャレンジしたいことを具体的に教えていただけますか。
いとう:たとえばこの「ロコピョン」(いとうさんが開発したロコモティブシンドローム〈※2〉予防ロボット/下写真)をもうちょっと違うものにしたいなと思います。ロボットの開発はたくさんの方が取り組んでらっしゃるので、「これいいな」と思ったロボットに私のプログラムを載せてもらうほうにシフトしていって、もっと多くの人に使っていただけるようにしたい。それから、もっともっとロコモティブシンドロームのことを多くの人に知ってもらって、「自分の身体は自分で守る」という意識を持ってもらえるといいですね。そんな風に、この社会のなにかに貢献できたらいいかなと思います。
※2 骨、関節、靭帯、筋肉、腱など身体を支える運動器に障害をきたし、移動や立ち座り等の移動機能が困難になる状態。運動器症候群。
左近:ぜひ、どんどんどんどん貢献していただいて世の中を幸せにしてください!
いとう:はい、頑張ります!
いとう:ギリギリまで頑張ればちょっとずつ越えられる壁なんですよね。低すぎる壁もこないし、高すぎる壁もこない。ギリギリ死なない程度まで頑張ることができれば、乗り越えられる。そうすると違う世界にいける壁が、毎回毎回きていると思います。それはすべての人にきていると思っています。
だから、「今がつらい」と思っている人に伝えたいのは、どんなにつらいと感じていても、他の人から見たらすごく低い壁かもしれないということ。でもね、本人から見ればギリギリの高い壁ですよね。だから、乗り越えれば必ずいいことがあるということだけは知ってもらいたいです。みんなそれぞれ高さが違います。
左近:自分の壁を直視して、それを人と比べないことが大事ですよね。
いとう:そうですね。
左近:壁に直面したとき、これを避けるのか、上にのぼり続けるのかということを問い続ける、行動し続けるということですね。
いとう:乗り越えないときというのは、いろいろな条件とか、自分の不遇を友達のせい、学校のせい、国のせい、政治のせいとか、なんでも他のせいにします。他のせいにすると、絶対に乗り越える気が起こらないですよね。なぜなら自分が悪くないんだから。
「なんかつらいな」と思っているって、たぶん、その先にいいことがあることを知らないと思うんです。そんなときこそ、たとえば「こんな勝手に動く心臓を持っている私、ありがとう」と感謝してみる。
左近:心臓に感謝!
いとう:感謝は魔法の言葉だと思います。感謝すると、気持ちが変わっていきます。感謝し続けていると、いろいろなことがありがたい、目の前に来た壁でさえも、ちょっと頑張ってみようかなって気になっていくような気がします。
いろいろな不遇に直面していると、なかなか感謝の気持ちを持てないし、つらい状況から抜け出せないこともあると思います。そんなとき、嘘でも、どんなことでもいいです。ちょっとケガをして、そのケガが治っただけでも「私の身体はすごい。あぁ、こんな身体を持てたことに感謝、ありがとう」と感謝してみる。
親に感謝できなくてもいいんです。感謝したくなかったら、他の何かに感謝してみるといいんじゃないかな。星が見える目を持てたことでもいい。なにかひとつでも自分の中に感謝できるものを見つけて、感謝していくと、乗り越えてみようかなという気持ちになるのではないかなと思います。
左近:とても前向きになれる言葉ですね。最後に、まい子さんが直近でチャレンジしたいことを具体的に教えていただけますか。
いとう:たとえばこの「ロコピョン」(いとうさんが開発したロコモティブシンドローム〈※2〉予防ロボット/下写真)をもうちょっと違うものにしたいなと思います。ロボットの開発はたくさんの方が取り組んでらっしゃるので、「これいいな」と思ったロボットに私のプログラムを載せてもらうほうにシフトしていって、もっと多くの人に使っていただけるようにしたい。それから、もっともっとロコモティブシンドロームのことを多くの人に知ってもらって、「自分の身体は自分で守る」という意識を持ってもらえるといいですね。そんな風に、この社会のなにかに貢献できたらいいかなと思います。
※2 骨、関節、靭帯、筋肉、腱など身体を支える運動器に障害をきたし、移動や立ち座り等の移動機能が困難になる状態。運動器症候群。
左近:ぜひ、どんどんどんどん貢献していただいて世の中を幸せにしてください!
いとう:はい、頑張ります!
いとうまい子
MAIKO ITO
タレント/女優
1964年、愛知県名古屋市生まれ。1982年「ミスマガジン」コンテストで初代グランプリを受賞し、アイドル歌手としてデビュー。以来、ドラマ、映画、情報・バラエティー番組など多方面で活躍中。芸能生活の傍ら2010年に早稲田大学(e-school)入学。2014年卒業後、大学院へ進学。2016年、修士課程修了。同年4月から博士後期課程へ進学。ロコモティブシンドロームを予防するロボットの研究と同時にロコモ予防の講演、トークショーなど、超高齢社会が抱える問題解決に向けた活動も精力的に行っている。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。