CROSS TALK
SAKON Dialogue : 007

ヘルシーな脳でハッピーな人生を

髙山雅行(株式会社イノベイジ・代表取締役社長)
髙山雅行
MASAYUKI TAKAYAMA
株式会社イノベイジ・代表取締役社長
SAKON Dialogue : 007
ヘルシーな脳でハッピーな人生を
肉体改造、筋力維持にコミットするフィットネスジムは数多存在するが、人生100年を健やかに過ごすためには、果たして肉体の健康だけで事足りるだろうか。これまでの私たちは、身体機能の健全さばかりを追求しすぎてはいなかっただろうか。できることなら体のみならず「脳」も健康を維持できたほうが、より幸せな人生を送れるかもしれない。そんななか、来たる超高齢社会を見据え、認知症予防の一環として脳を鍛えて、脳の健康を維持する脳専門のトレーニングジムが東京・恵比寿に誕生した。その仕掛け人でもある株式会社イノベイジの髙山雅行氏を訪ね、この画期的で革新的なジムをたち上げた理念と理想をうかがった。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Masaki Takahashi

アメリカでは定着している「脳トレ」サービス

山本左近(以下、左近):本日はお時間をいただきありがとうございます。髙山代表が始められた『ブレインフィットネス®』(リンク先参照)にはずっと興味があり、今回こうして体験できたことは非常に貴重な時間であったと同時に、なぜこういった脳トレジムに着目されたのかと非常に興味が湧きました。
髙山雅行(以下、髙山):実際やってみていかがでしたか?
左近:脳トレゲームやマインドフルネスといった各種プログラムを体験する中で、脳の活性具合が最新のデバイスによってグラフ化され、自分の目で見られることにとても驚きました。もちろんプログラム内容そのものも、脳をフル稼働させている刺激や実感も得られました。
髙山:世の中には肉体を鍛えるためのフィットネスジムは無数にありますでしょう。しかし脳を鍛えるとなると、その専門施設はほぼ見当たりません。一方でアメリカでは「ブレインフィットネス」という言葉が普通名詞化していて、それに付随したさまざまなサービスが提供されているんです。私自身、日本の超高齢社会に向けて、課題解決するための事業をたち上げたい想いがあり、そこで脳を鍛えて認知症予防に寄与するサービスを提供できたらと思いつき、脳トレーニングジム「ブレインフィットネス®」を2017年春より東京・恵比寿でオープンしたわけです。
左近:日本は超高齢社会を迎える中、認知症予防というは喫緊の課題です。しかしながら、認知症の原因を含めて未だに未知数な領域なので、エヴィデンスのあるソリューションがまだまだ限られるといえます。その中で血管性認知症は生活習慣を改善することで予防可能なものとして知られているので、髙山代表が打ち出した脳トレジムというサービスは、予防策を求めていた人たちにとって一つのとても重要なきっかけとなると注目しています。
髙山:ありがとうございます。事業としての成長スピードは遅いかもしれませんが、成長モデルを作り上げる挑戦もしていきたいと考えています。
左近:脳トレという言葉は、少し前にテレビ番組やコンシューマーゲームの間で流行りましたが、そういったエンタテインメントの視点とは、また違った角度で髙山代表はブレインフィットネス®をたち上げたそうですね。
髙山:脳を使うゲームすべてが脳の活性や、ひいては認知症予防に効果があるかというとそうではなく、実際は玉石混交なんですよ。私たちは信頼に足る論文やエビデンスを基に、本当に脳の活性や健康に寄与するゲームだけを取捨選択し採用しています。そういった理論を裏付ける論文を常に探していて、その一環で「nounow」という脳トレや認知症状予防の最新メディアや論文を引用したニュースを提供するサービスも同時に行っています。また障害者福祉支援サービス就労移行支援事業所「ニューロワークス」の運営も行っています。ブレインフィットネスを含めたこの3本柱が、イノベイジの主たる事業になります。
左近:まさしく「長寿のMIKATA」の読者に刺さる事業を行っていらっしゃったので、今回ご登場をとお願いした次第です。

不老長寿と認知症予防のポイントは同じ

左近:「認知症予防」は、人生100年時代を幸せに生きるための重要な条件のひとつだと思います。そうあるための理想的なライフスタイルのかたちについては、どう考えますか。
髙山:脳トレゲーム以前に、脳の健康を長く維持するためのポイントとして、①運動、②食事、③睡眠、④ストレスケア、⑤脳への知的刺激、この5つが非常に重要なんです。ブレインフィットネス®のプログラムでは、脳への直接的なトレーニング以外に食事・睡眠・運動などのアドバイスもあわせて行っています。
左近:髙山代表がおっしゃった5つのポイントは、人間らしい生活を行う上での基本中の基本でもありますよね。つまり生活習慣の見直しこそが認知症予防の糸口にもなるといえるわけですね。
髙山:そうなんです。われわれが提案しているプログラムはもちろん「脳によい」という観点から作り上げたのですが、これは「身体にもよい」内容でもあるんです。さらに、寿命をつかさどるテロメアという長寿遺伝子を長くする方法と、私たちの提案するプログラムがけっこう似ているんですよ。
左近:それは期待が膨らみますね。今後特に力を注いで取り組んでいきたいこと、または将来的なビジョンはありますか?
髙山:現在およそMCI(軽度認知障害)が400万人いて、2025年には認知症患者数は730万人以上に達すると予測されています。なかでもMCIは認知症の前段階でことさら治療法がなく、たいてい経過観察と診断されてしまいます。しかし、MCIは5年で約4割が認知症へと進行してしまうんです。われわれはその状況をただ指をくわえて見ているわけにはいかず、実はいま東京・四谷で認知症予防を行っている「ブレインケアクリニック」と提携して、MCIを改善するためのプログラムを考案しています。
左近:私たちも髙山代表と同じように、MCIの方々に対して経過観察ですませていいのかと疑問を抱き、福祉村病院でも「認知症予防脳ドック」を立ち上げていますが、そこでは脳の状態をMRIで撮ったり認知機能診断テストをやったりするだけでなく、運動や食事といった生活習慣に関することもチェックして認知症予防に取り組んでいます。その中で、髙山代表率いるブレインフィットネス®がMCIの方々に対して、どれだけ効果のあるプログラムを提供されるのか本当に期待をしています。現在ブレインフィットネス®のサービスが受けられるのは東京・恵比寿のみですが、例えば私たちの施設でも受けられるようにすれば、さらに広がっていくと思いますので、お手伝いできればうれしいですね。
髙山:ぜひお願いしたい。とても光栄なご提案です。
左近:ありがとうございます。では最後の質問ですが、医療福祉分野におけるテクノロジーの可能性についてはどのようにお考えでしょうか。ブレインフィットネス®のプログラムからもテクノロジーの恩恵をいくつも感じました。
髙山:AR(Augmented Reality:拡張現実)の技術には注目していますね。脳の障害を持っている人たちのQOL(生活の質)を底上げできる方法のひとつになるでしょうし、認知症改善にも役立つに違いないと思っていて、そういった最新技術の導入も視野に入れています。
左近:テクノロジーは人間の機能や能力を拡張するツールだと思います。一例ですがARグラスをかけて会話をしていると、ちょっと前に自分が話したログが見えて確認できたら便利ですよね。認知症の方は少し前の記憶を忘れてしまいがちですから、こうしたグラスをかければ会話中に同じ話を何度もしてしまうことが避けられるかもしれないですよね。「また同じこと言って!」と相手に言われて恥をかかなくてすみます。
髙山:なるほど、それは面白いですね。私たちはパーソナルトレーナーという「人」を介してブレインフィットネス®のサービスを提供しているのですが、テクノロジーに注目する一方で、トレーナーが熱心に向き合うからこそ、お客様が頑張れる部分が大いにあると思っています。AIが人間の仕事を奪うといわれますが、人間だけしかできないサービスの提供も大切にしていきたいですね。
左近:まさしくそうだと思います。人なくしては支えていけない部分はたくさんあります。それを忘れてしまっては、人が感じる幸せの真の価値観を提供できないと私も思います。今日はとても勉強になりました。本当にありがとうございました。
髙山雅行
MASAYUKI TAKAYAMA
株式会社イノベイジ・代表取締役社長
1965年、5月16日生まれ。1989年に神戸大学経済学部卒業後、株式会社リクルート人材センター(現 リクルートキャリア)入社。1996年、インターネットマーケティング事業を展開する㈱アスパイア(現 アイレップ)を創業。2006年にはヘラクレス市場(現 東証ジャスダック市場)に上場し、2009年に代表取締役会長CEOに就任。2012年に同社を退職したのち、2013年に株式会社イノベイジを創業し、第二の起業をスタートさせた。主な業務に、脳トレーニングジム「ブレインフィットネス®」の運営、新しい障害者就労移行支援「ニューロワークス」の運営などの他、脳科学・ブレインテックを活用したサービス開発にも取り組んでいる。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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