Super GB

夢いつまでも

001
三浦雄一郎
Yuichiro Miura

90歳になったらもう一度
エベレストに登頂するつもりです

わたしたちは、「おじいちゃん」「おばあちゃん」という言葉を高齢の方に対して何気なく使う。しかし人生100年時代といわれる今、75歳なんてまだまだ若い。超高齢社会が加速する中でも、高齢であることをみじんも感じさせない、それどころか若者以上にバイタリティに満ち溢れた活動を続ける人がたくさんいる。想像を絶するほどタフで、趣味も仕事も全力で楽しむそんな人たちを、称賛の気持ちを込めて「SUPER GB(Super Great / Super Beauty)」と命名した。彼ら彼女らの輝きの源はどこにあるのか。その秘密を知りたくて、そして学びたくて、会いにいくことにした−−。

第1回目を飾るのは、御年85歳、冒険家の三浦雄一郎さんである。SUPERの“S”を3つ付けても足りないくらいの人物だ。三浦さんの肉体と精神を若く保つ秘訣とは、目からウロコがボロボロ落ちることばかり。その言葉にぜひとも耳を傾けていただきたい。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Higashi Murayama

一時は余命わずかと診断された

Q:まずは本企画「SUPER GB(Super Great / Super Beauty)」の第1回目に登場いただきありがとうございます。この企画をたち上げるに際し、まず候補者の筆頭に思い浮かんだのが三浦雄一郎さんでした。なにしろ80歳でエベレスト登頂を果たした快挙は誰にも真似のできない金字塔です。事実、ギネスにも認定されている大記録です。
三浦雄一郎(以下、三浦):実は70歳、75歳にもエベレストを登頂していて、80歳が3度目でした。さすがにだんだん登頂と下山スピードは遅くなっていますけれど。なぜ繰り返し挑戦するのかとよく聞かれます。美しく素晴らしいエベレストの光景は、何度見ても飽きないからです。それとそこに山があるから。さらに言うと、登頂後しばらくするとまた挑戦心がむくむくと湧いてくるんです。さすがに家族も飽きれ気味ですけれど(笑)。
Q:三浦さんといえば1985年、54歳の時に世界七大陸最高峰全峰から、スキーによる滑降を成功させた前人未到の記録もお持ちです。ご自身の冒険物語がそこで完結しなかったのはなぜですか?
三浦:世界七大陸最高峰滑降を完遂したその後は目標を失ってしまい、しばらく自堕落な生活が続いてしまったんです。暴飲暴食であっという間にメタボリック症候群になった。身長164cmで体重90kgにまでなりました。高血圧による狭心症の発作まで患い、一時は余命3年と診断されたこともありました。
Q:そんな状況から現在の活力に満ちた状態にいかにして戻せたのですか?
三浦:私が体調を悪化させてくすぶっている時に、父親が99歳でモンブランからのスキー滑降に成功したんです。「親父がモンブランなら、俺はエベレストをやってやるぞ」って火が付き、それを目標にトレーニングを頑張ればメタボも解消され、健康な肉体が取り戻せるかなと半ば安易に思いついたことが今に至っているわけです。
父親であり、同じく偉大なプロスキーヤーでもあった故・三浦敬三さんのスキー板を愛用。

よく歩き、よく食べ、よく書く

Q:60代になって遅咲きでエベレストを目指し始めてからのトレーニングは、さぞかしハードなものだったのでしょうね。
三浦:自ら考案したヘビーウォーキングを実践しました。足首に重りをつけて街中や山道を歩くんですよ。1年目は片足に1キロずつ、2年目から3キロ、3年目で5キロを装着し、さらに鉄アレイを入れた10キロのリュックを背負って日々歩き続けました。もともと登山の基本トレーニングで実践されている方法なんです。特別なマシンも必要なく、歩くという基本的な動作が最良にして最大のトレーニングになるわけです。
Q:三浦さんほど大きな負荷をかけずとも、三浦式ヘビーウォーキングは若さを保つ、あるいは若さを取り戻すよい方法かもしれませんね。もちろん食生活も改善されたのですか?
三浦:いやあ、そこはまったく。相変わらずいつも好きなものを飲み食いしています(笑)。
Q:三浦さんといえばこんな逸話をよく耳にします。85歳にして行きつけのステーキハウスでステーキを1kg平らげている、と。その噂は本当なのですか?
三浦:ええ、本当ですよ。ただ最近はすっかり食が細くなって、ステーキはもう800gしか食べられない(笑)。
Q:今でも800g! よく歩き、よく食べる。非常にプリミティブな方法こそが、健康と若さを保つ一番の方法なのだと改めて感じますが、もうひとつ驚くことは三浦さんの頭脳の明瞭ぶりです。85歳ともなれば認知症を患う方も少なくありません。何か頭脳のトレーニングを意識的に行っているんですか?
三浦:まず週に2~3冊は本を読んでいます。歴史、冒険、探検、健康医学などジャンルは問わず。気になる部分には線を引き、書き出すこともしています。それから仕事で原稿を書いたり、登山中には日記を毎日書くので、それらが頭の刺激になっているのでしょうね。
非常に物腰が穏やかな三浦さん。姿勢もよく、肌のハリもとても85歳には見えない若々しさ。

エベレストに登ると150歳になる

Q:三浦さんにとっての元気の秘訣はなんでしょうか?
三浦:のんきに深く物事を考えすぎないことでしょうか。なるようになるさっていつも楽観的です。思い詰めないし、悩みません。
Q:楽観的ということは、例えばエベレストなどで死に直面するかもしれないといった恐怖心は持たないものなのでしょうか?
三浦:エベレストに登りたい衝動は、死への恐怖心をはるかに上回ります。万一死に直面したら、それは結果として受け止めればいい。好きなことをやっているわけですし、人間誰しもいつかは死ぬという気持ちでいます。
Q:やはりエベレストの環境は、常人では想像しがたい厳しい世界なのでしょうね。
三浦:エベレストに登ることはある意味で高齢化を体験することなんですよ。というのは、私たちが住む地上に比べて、8000m超の世界は酸素が3分の1まで減ります。すると一時的に肉体の機能が衰え、年齢的に換算すると約70歳加齢した状態になるんです。山登りとは急速な高齢化そのものなんです。私の場合、肉体年齢は150歳相当になります。現実的な最高長寿記録は130歳くらいですから、それ以上のゾーンを私は体験しているんですよ(笑)。
Q:誰しも体験できない世界を体感し、なおかつ何度も生還できているのは三浦さんだからこそだと思います。一般の70歳、80歳がエベレストを目指すなんて不可能だと思います。
三浦:そんなことは決してない。要は意欲があるかないかだと思いますよ。私なんかより元気なじいちゃん、ばあちゃんはたくさんいますから。強く目標を持ち続ければ、誰でも登れると思います。
Q:とても勇気をもらえる言葉ですね。何歳でも目標を持って生きるべきだと教えられる思いがします。最後にこれからの夢や目標はありますか?
三浦:おそらく私は90歳までは生きそうなので(笑)、それまでに南米最高峰のアコンカグアとヨーロッパ最高峰のエルブルースを登り、そして90歳になったらもう一度エベレストに登頂するつもりです。家族はまたホラを吹いてと笑っていますが、私はけっこう真剣で、高い目標を掲げながら密かに意欲を燃やしているところです。
2013年5月23日、80歳でエベレスト登頂に成功。世界最高年齢登頂記録としてギネスに認定された。
(ミウラドルフィンズ提供)

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