CROSS TALK
SAKON Dialogue : 013

人生100年時代の日本に変革のウェーブを #2

佐々木裕子(株式会社チェンジウェーブ/株式会社リクシス・代表取締役社長CEO)
佐々木裕子
HIROKO SASAKI
株式会社チェンジウェーブ/株式会社リクシス・代表取締役社長CEO
SAKON Dialogue : 013
人生100年時代の日本に変革のウェーブを #2
前回(#1参照)に続き、佐々木裕子さんと山本左近とのCROSS TALKをお届けする。私たち日本人は「人に迷惑をかけてはいけない」という教育を受けていることもあり、人に頼ることが苦手。なかなか「助けて」という声をあげられない。 しかし、介護においては、その考えをあらためてもいいはずだ。人生100年時代においては「いかに支え合うか」は重要なテーマになる。個を尊重するあまり断絶されがちな関係をつなぎ直し、どう再構築していくか。佐々木さんの話から、つながりを再構築するヒントを山本左近が探った。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Keiko Sawada

困ったら「助けて」と第三者を頼ろう

山本左近(以下、左近):介護に関する事業をやっていくために(株式会社チェンジウェーブとは別に)株式会社リクシスをたち上げられたのだと思いますが、どんなことをやっていこうと考えていますか?

佐々木裕子(以下、佐々木):リクシスは、まず個人的な動機から始まっています。私の両親は、父が80代後半、母も80歳を超えています。私はひとりっ子ですが、両親は愛知県で2人で生活しているんですね。母は介護保険制度で「要支援2」の認定を受けていて、歩きづらくなっています。

もちろん両親には幸せでいてほしいですし、いくつになっても自分の人生をあきらめてほしくありません。その一方で、私は東京で仕事をしながら子どもを育て、自分の人生や幸せも大切にしたいわけです。

そうした状況で自分なりに調査してわかったことは、やはり「介護とは◯◯◯◯である」といった既成概念があるということでした。子は罪悪感をもってしまい、仕事を辞めようかと葛藤しますし、親は子に迷惑をかけまいと本意じゃなくても施設に入ることもあります。
そういった呪縛を解放したいと思ったことが始まりです。

左近:佐々木さんご自身の経験がベースになっているんですね。

佐々木: 私は、介護が必要になっても仕事をすればいいと思っているんです。不自由なことが一部あるだけで、他にできることはたくさんあるはずですから。介護される生活が始まったら、その人の人生がいきなりギアチェンジすると考えるのはおかしいでしょう。

被介護者になったことで何が変わるって、ただ「周りにサポートされる生活が始まりました」というだけのこと。介護する人もされる人も、それぐらいに思えるようになっていただけたらと、リクシスの運営を続けています。

そのためには、「みんなで、ひとりをサポートする」体制をつくっていく必要があります。いろんな人が関わることが、とても大切に思います。家族だけで完結しなくてもいい、施設で過ごすことがすべてじゃない、そういうやり方を見つけていきたいですね。

左近:日本では何事においても「親切丁寧で100点がベスト」みたいな考えが強いと感じますが、僕は常々、こと介護に関しては、それは間違いだと思っています。本人は介護をしてほしくてやってもらっているわけではないんですよね。できることなら、自分が他の人の役に立ちたいと思っています。

例えば、身内の例ですが、僕が両手に荷物を持っていると、91歳にもなる父が僕の荷物を持とうとするわけです。僕は「90歳を超える父に荷物を持ってもらうなんて申し訳ない」と思ったり、「転んでしまったらどうしよう」と不安だったり、自分でできるよと言ってきたのですが、本人の「荷物を持ってあげたい。役に立ちたい」という気持ちをできる限り尊重することが大切だと考え直して、最近は1つ軽そうなものを持ってもらうようにしました(笑)。

佐々木:おっしゃる通りです。私の母は歩きづらくなっていますが、孫のダンスの発表会があると、わざわざ東京まで見に来ます。ビデオを撮って送ることもできますが、無理をさせてはいけないとやめさせることは、逆に、母が本当に大事にしているものを奪うことになると思うんです。

介護が必要だからといって、身の回りのことをぜんぶ他の人がやって、自分で何もできなくなったら、私なら「もう生きていたくない」と思います。だから、誰にもそんな思いをさせたくありません。

左近:「できる」こと、「できない」ことを見極めることは自立支援において大切ですが、一方で、助けてもらう立場を受け入れることも大事ですよね。これは介護される人がケアを受け入れるという意味だけでなく、介護する側にもいえます。

佐々木:介護で疲れちゃった人、病気になった人、子育てをしながら仕事をしている人、一時的にでも、もう明らかに自分の許容範囲を超える状況になったら、迷わず思いっきり人に頼ることだと思います。ちゃんと自分から「助けて」と言う。

人間って、種の保存で、困っている人を助けようとする本能があるようです。それは赤ちゃん研究でもわかっていて、赤ちゃんのときからそういう性質をもっているらしいのですね。

もし自分が助けてあげられなくても、誰かを紹介するなどで、なんとかしようとするのが私たち人間です。だから、「助けて」と声をあげれば、誰かが助けてくれる。それがうまく広がって、その人を助けるコミュニティが生まれていくことが理想です。

左近:僕ら日本人は「人に迷惑をかけてはいけない」という教育を受けていることもあり、人に頼ることが苦手ですよね。まして、会社の同僚でも友達でもない、ホントの第三者に頼ることは簡単なことではありません。

いま介護保険ではケアマネジャーという職種があり、そのケアマネが介護を受ける本人と家族をとりもつ役割を果たしています。そのことで介護の世界は大きく変わりました。

介護以外にも、こういう第三者的な立場の人に自分を客観的に見てもらったり、アドバイスをもらったりできる仕組みがあれば、日本社会がもっと違ったものになるように思います。

21世紀はつながりを再構築する時代

佐々木:私が「変革屋」と呼んでいるチェンジウェーブでやっている仕事も、あるグループに第三者として入ることなんですね。当事者だけでやっていることよりも、第三者に入ってもらうことに価値があると思ってくださるから成り立っている仕事です。要するに、チェンジウェーブって、おせっかいな人間の集まりなんです(笑)。

だけど、お互いに「大丈夫だよ」と言い合える相手や、「もうちょっとだから頑張って」と言ってくれる“おせっかいな人”が周りにいることは、とても大事なことです。
変革のプログラムを組ませてもらっても、1人だとなかなか続きません。

変革というのは簡単には進みませんし、いろんな抵抗に遭いながらも七転八倒して、最後に踏ん張りきって成功する、ということが多いんです。そのため、3人から4人のチームでないとダメなんです。

左近:1人だと折れてしまうところが、お互いに「大丈夫だよ」とか「もうちょっと頑張って」と言ってくれる“おせっかいな人”が周りにいるというのは、成功するうえでとても大事なことなんですね。

佐々木: おせっかいな人というのは、これまでなら煙たがられるようなところもあったかもしれませんが、徐々に変わってきているように思います。

左近:ここ数十年は「個の尊重」という意識づけが強かったように感じますが、「仕事以外の日常生活において、友人などの知り合いに会っているか」という質問に対して、日本は全てに対して「めったにない」あるいは「全くない」と答えたのが15.3%と、世界でトップなんです。アメリカは3%ぐらいという報告もあります。

アメリカって「個」を尊重するイメージがあるのに、実は他人とつながりをもちたい人、つながりをもっている人が多いというのはとても興味深いことです。

僕は、日本の20世紀後半は、集団よりも個が尊重された、され過ぎてきた時代だったように思います。21世紀は「横につながる時代」になっていくのではないでしょうか。

孤独や生きにくさを感じる現状があるわけですから、今後はもう一度「人と人をつなぎ直す」作業が必要に思います。個人を尊重することと、孤独でほったらかしておく事は同義ではありません。

自己責任で断絶されがちなものをつなぎ直し、どう再構築していくか。それを実行するには“おせっかいな人”が必要になるという明確な答えが見えたように思います。

出典 UNICEF Innocenti Research Centre Report Card 7
https://www.unicef.or.jp/
library/pres_bn2007/pdf/rc7_aw3.pdf


佐々木: SNSのような場でも、ある種のコミュニティはつくれるようになりましたが、何かあった時に助けてくれる家族の延長線上のようなコミュニティは、リアルな世界でつくるほうが確実だと思います。

先日、娘と一緒に知人を訪ねたところ、古いマンションをリノベーションしている最中で、「ここにご近所さんとで一緒に住めたらいいと思ってる」と言うんですね。思っているだけでなく、実際に「一緒に住まないか」と声もかけているそうなんです。もし私がそこに住んだら、みんなが娘をみてくれ、みんなで育てている感じになります。

この知人の話は一例ですが、お互いに何かあったときに頼れるコミュニティをつくれたら素敵です。お互いにおせっかいを焼きまくる「現代の長屋」みたいで、家族も子育ても、そうなっていくと日本の未来も明るい気がします。

左近:そんな社会を実現したいですね。佐々木さんの活動は、引き続き「概念を変える」ところが主軸で、それに加えて、「おせっかいな人をつくりまくる!」ことに、ぜひ挑戦してもらいたいと思います。勝手なこと言ってすみません(笑)。

おせっかいな人というのは煙たがられたりするものですが、これからの日本では、そういう人がキーパーソンになっていくのかもしれませんね。
佐々木裕子
HIROKO SASAKI
株式会社チェンジウェーブ/株式会社リクシス・代表取締役社長CEO
東京大学法学部卒。日本銀行を経て、マッキンゼーアンドカンパニーにて企業の経営変革プロジェクトに従事。2009年に株式会社チェンジウェーブを創立。さらに、介護情報サイト「KAIGO LAB(カイゴラボ)」を運営する酒井穣氏をビジネスパートナーとして、2016年に介護コンサルティング事業を行う株式会社リクシスを創立した。自らの出産と同時に託児サービス事業を立ち上げ、現在は小規模認可保育所を運営。2017年には愛知県在住の母親が要支援認定された。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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