CROSS TALK
SAKON Dialogue : 003

「命」をアクティベートする食

西邨マユミ(マクロビオティック・ヘルス・コーチ)
西邨マユミ
MAYUMI NISHIMURA
マクロビオティック・ヘルス・コーチ
SAKON Dialogue : 003
「命」をアクティベートする食
食べることは生きること。食は、命をアクティベートする大切なこと。マドンナをはじめ、世界のセレブリティたちのプライベートシェフを務めた西邨マユミさんは、そう語ります。土、食物、そして、私たちのカラダは、多様につながり合って成り立っています。食は、私たちのつながりを祝う。あなたがいま選択する食は、未来のあなたをつくるもの。あなたは、いつ、誰と、どんなものを食べていますか?
photos : Hitoshi Iwakiri
text : Keisuke Ueda

微生物群とダイバーシティ

孤独を解消する方策としての食

山本左近(以下、山本):最近、日本では子どもの孤食ということが大きな問題になっています。ある調査によれば、日本は、15歳の子どもが孤独だと感じている割合が約30%で、先進国のなかで最も多いとされています。

西邨マユミ(以下、西邨):それはとても不幸なことで、私は米国での暮らしが長いので一概には言えませんが、……そこで少し比べて考えてみて思うのは、アメリカの場合、子どもの頃から個が尊重されていて、自分がやりたいこと、したいことを、それが他人を傷つけない限り、自由にやりなさいという風潮がある。それゆえに、自分以外の異なる他者に対して寛容になれるし、むしろ違うからこそ積極的に交流しようということが根付いているのかもしれませんね。

山本:なるほど。そこで、この問題に取り組んでいるNPOや社会福祉法人が「子供食堂」を作っているわけですが、僕が思ったのは、現代社会において、それは子どもだけではなく、大人も含めて人と人のつながりが薄れてきていて、そんな孤独を解消するためには、食事を囲むということが一つの手段になるのではないか? と思うのですが、いかがでしょう。

西邨:それもひとつの手段だと思います。その答えになるのかわかりませんが、「多様性」という視点で考えてみましょうか。私が最近注目していることの一つに、「マイクロバイオーム」があります。腸内フローラとも呼ばれている、微生物群のことですが、人間の腸内には、善玉菌、悪玉菌、バクテリアなどの様々な多様な微生物が混在していてひとつのまとまりを成し、人間の健康を支えていると言われていますよね。それは、土壌も同じで、多種多様な微生物群が存在している環境がオーガニックなわけです。だからそこで育った食べ物は生命力が強い。
 これを人間社会に置き換えて考えてみると、独りではなく、違うからこそつながっている、多様な人々が共に支え合って暮らしている空間は、活力に溢れていると言えるのではないでしょうか。人種や世代、障がいなどによる個性の違いはあっても、みな食べることは共通していますから、食が孤独を解消する手助けになるということはあり得ると思います。なにより、いろんな人と一緒に食事をすることは楽しいですから(笑)。……食を介してつながるということは大きいと思いますね。

山本:私たちが運営している福祉村病院でも院内の敷地にある菜園で野菜をつくったりしています。それは、認知症リハビリテーションの一環で、作業療法のプログラムという側面もあるのですが、自分たちでつくったものを食べるという体験を共有できることが、利用者の方々同士やスタッフも含めたコミュニケーションを醸成することにもなっているように思います、今年は初めて、近隣の農家から二反の田んぼを借りて、障がい者、園児、高齢者、学生、などみんなで、無農薬無肥料による自然栽培でのお米づくりに挑戦しました。田植えから稲刈りまで頑張って、二俵分のお米が収穫できました。田植えの時はみんなで泥んこになって(笑)。楽しい体験でしたし、この稲作を通じて、みんなのつながりがぐっと強くなったように思えたのです。

西邨:土に触れるということは、とても良いことですよ。良い土に触れて、食物をつくり、収穫して食べることで、命がアクティベートされますから。

命をアクティベートすることは、

幾つになってもできること

山本:アクティベート、起動するということですか?

西邨:そう。良い食物には、良いエネルギーが蓄えられている。そしてそのエネルギーは、良い土から得られるものです。例えば、玄米は水に浸しておくと自然に芽がでてくる、発芽玄米ですね。それがアクティベートです。眠っていたエネルギーが、発芽しようとして動き出す。精米された白い米は、水に浸して放置しておくと腐ってしまいます。そのくらいエネルギーが違うのです。
 私はよく「貯金」という言い方しますが、アクティベートされた食材を選ぶことで、自分の体のなかにしっかりエネルギーを蓄えることができる。これは穀類や野菜だけでなく、たんぱく質も同じです。動物性のものを一切食べてはいけないということではありませんが、たんぱく質は、豆類などの植物性の食材からでも充分貯金できる。腸が吸収しやすいのはどちらかということですね。土も食材も人間の体もそうやってつながっていて、命がアクティベートしていくわけです。

山本:そうしたつながりを意識する、あるいは、取り戻すということが大切なことですね。そこから日々の食の選択が変わっていくと良いなと思うんですが。

西邨:私が好きな言葉に「Never too late」というものがあります。いつはじめても遅過ぎることはない。親が子どものために気をつけてあげることは大切ですし、若いうちにそれに気づくことはラッキーですよね。でも、歳を取ってから気づいたとしても、そこから食の選択を変えることができれば、その変化は大きかったりします。気がついた時に変えることができれば、変えたことによって、気がつかなかったときとは違う自分をつくっていくことができる。3日目くらいが辛い時期ですが、そこを超えればある程度続けられる。10日目くらいで自分の体の変化を自覚するようになり、7年目くらいにはその人の細胞はすべて入れ替わっているはずです。
 それをどうやって楽しみながら続けていくか? 選ぶということは狭めるということではないんです。むしろ逆。抜くのではなく、足す。足してから引く。最初は白米しかなかったとして、そこに少し雑穀を足してみよう、玄米を採り入れてみよう。あるいは、魚や肉の料理に、少し豆を足してみようとか。そうやって自分で考えて試していく過程を楽しんで、そこから自分にフィットするものを残しながら引いていく。まずは、積極的に自分が食べたことのないものを選択肢に加えていく。それは幅を広げていくことであって、小さくすることではないんですね。

山本:なるほど、試行錯誤しながら、幅を広げていくんですね。そうやって考えると、日々楽しみながら続けることができますよね。

西邨:そうでしょ? それと、ゆっくり噛んで食べること、そして、なるべく深夜に食事を取らないことも大事。腸が食べたものを消化するのには4時間くらい必要ですから、寝ている間も腸が働いていると身体が休まりません。これを避ければ、朝起きた時、たとえ外が雨でも、お腹の中は「晴天」ですよ(笑)。
西邨マユミ
MAYUMI NISHIMURA
マクロビオティック・ヘルス・コーチ
1982年に単身渡米、マクロビオティックの世界的権威である久司道夫氏に師事。クシ インスティテュート ベケット校の料理主任および料理講師として活躍した他、時代のニーズに合った「プチマクロ」を提唱している。 2001年より通算10年間にわたり歌手マドンナ一家のパーソナル・シェフを務めた他、ブラッド・ピット、ミランダ・カー、スティング、ゴア元副大統領など多くの著名人に食事を提供。現在も国内外で精力的に活動中。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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