介護のMIKATA

認知症看護認定
看護師

幸せな認知症ライフを支える
プロフェッショナル
2025年に日本の高齢者人口は3500万人を超え、人口の約3割が高齢者になるといわれる(※1)。このとき、認知症を患っている人は730万人、高齢者のうち何と5人に1人が認知症と見込まれる(※2)。しかしながら、認知症患者に対応できるプロフェッショナルはまだまだ少ない。医療の現場においては、知識や経験の不足から看護師がストレスを抱えてしまうことがよくあり、残念なことに拘束や薬剤に頼ってしまう現場すらある。認知症ケアに特化した認知症看護認定看護師の存在は、今後欠かせないものとなるはずだ。

※1 総務省「国勢調査」、社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」 (出生中位・死亡中位)、厚生労働省「人口動態統計」より
※2 厚生労働省 平成28年版高齢社会白書「高齢者の健康」より
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Yuko Ogawa

「以前のようにできない」が増える認知症

 認知症の症状は大きく2つに分けられる。中核症状と行動・心理症状だ。中核症状で代表的なのが記憶障害だろう。脳の機能が低下することにより、過去のことを思い出せなかったり、最近の出来事を覚えられなかったりする。このほか、時間や場所、人間関係などを把握する能力(見当識)、理解・判断力、実行力などの面で起きる障害も中核症状に分類される。

 その症状により、患者はさまざまなストレスにさらされる。長年やってきた家事ができなくなった、相手が誰なのか思い出せない……。自信や尊厳が損なわれ、不安・抑うつ、妄想・幻覚、興奮・暴力、徘徊といった症状があらわれる。これを行動・心理症状(BPSD、周辺症状とも)という。
 中核症状、行動・心理症状ともに出現の仕方は千差万別。症状の組み合わせや重症度も人によってさまざまで、糖尿病や高血圧症といった別の疾患を抱えている患者も多い。加えて、行動・心理症状は、周囲の対応や環境などの影響を強く受けるといわれる。適切なケアをすれば症状の進行をゆるやかにし、うまくいけば軽減・改善できることもある一方で、不適切なケアをすれば悪化させてしまう。

 ゆえに、認知症のケアには確かな知識と経験を持った人間があたるのが理想であり、医療の現場では、その役割は看護師や介護福祉士などに求められる。認知症看護認定看護師は、こうした背景のもとに誕生した認知症ケアのプロフェッショナルだ。

「認知症ケアのプロがいたらいいのに」

 認知症看護認定看護師は、救急看護や緩和ケアなど21の分野が特定されている認定看護師のひとつ。応募には条件があり、まず、5年以上の臨床経験があり、うち3年以上は認知症看護を経験していなければならない。
 この条件を満たし、なおかつ、入試を突破した者だけが認定看護師教育機関への入学を許可される。入学後は研修の日々。最後に試験を受け、それをパスしてようやく認知症看護認定看護師を名乗ることができる。

 2018年5月2日現在、認知症看護認定看護師は994名(※3)。医療法人さわらび会で働く平田幸代さんもそのひとりだ。
 平田さんが所属する医療法人さわらび会には認知症を専門とする福祉村病院がある。そこで10年ほど看護師として働いていた平田さんは、なぜ、認知症看護認定看護師を目指したのだろう。平田さんはこう語る。

 「福祉村病院で働くようになって5年ほど経った頃、食事介助がうまくいかずに悩んだことがありました。認知症の患者さんの中には食が細くなったり、食事を拒否したりする人が少なくありません。何とかして食べてもらおうとするのですが、なかなかうまくいかなくて……。福祉村病院は認知症に特化した病院ですから、職員はみな認知症の基本的な知識やスキルは持っています。でも、『認知症看護のプロがいたら、もっといいケアを提供できるのではないか』と思ったんです。今思えば、それがきっかけですね」

 それからおよそ5年後、看護総師長の強い勧めもあり、病院の資格取得制度を活用し、平田さんは810時間、約8ヶ月間におよぶ認知症看護研修を修了。2015年から、認知症看護認定看護師として働いている。

※3 日本看護協会「データで見る認定看護師 分野別都道府県別登録者数一覧」より

どうすれば患者視点のケアができるか
実現する方法を一緒に考え続ける

 認知症看護認定看護師は、現場のリーダーとして、実践・指導・相談の3つの活動を行う。「実践」は、認知症看護認定看護師自らが他の手本となるような、質の高い認知症ケアを提供すること。「相談」については、同僚の看護師はもちろん、認知症患者の家族からも受け付ける。「指導」は、平田さんいわく「コンサルのようなもの」。

 「コンサルといっても、何か特別なことをしているわけではありません。例えば、認知症の患者さんは新しい事柄を覚えるのが苦手なので、同じ質問を何度もされることがあります。そうした認知症特有の症状への対応に悩んでいる看護師がいれば、『何度も質問されても、患者さんが安心できるように、その都度向き合って答えていきましょ』とお願いしたり、『メモを書いて患者さんの見えるところに貼ってみてはどうでしょう』とアドバイスしたりという感じです。訴えに1つ1つ丁寧に向き合っていくことを看護職に伝えていきたい」

 言うまでもなく看護師は多忙だ。一人ひとりの患者とじっくり向き合うのが理想であり、そうすべき、そうしたいと思いながらも、実践は難しい。患者に「家に帰りたい」と訴えられても、次の業務に追われて当たり障りのない相槌を打つのが精一杯。食堂まで一緒に歩いて行ったほうがリハビリになるとわかっていても、山積みの仕事や他の患者のことを考えたら、車椅子にのせて連れていかざるをえない。

 「治療や業務の遂行に忙殺されるあまり、どうしても看護師視点のケアになってしまうんです。でも、それじゃあダメなんですよね。患者さん視点のケアをしないと。『患者さん視点のケアをしよう』と伝え続けて、どうやったら実現できるのか一緒に考える。それが認知症看護認定看護師である私の役割と考えています」

ケアの基本は「その人らしさを尊重する」こと

 認知症のケアにはさまざまなメソッドがある。1980年代末の英国で提唱されたパーソン・センタード・ケア、フランスで始まったユマニチュード、アメリカのバリデーション・ブレイクスルーなど……。各メソッドが生まれた経緯や具体的な手法は違うものの、根底には「患者さん個人を尊重するケアをしよう」という思想がある。
 「認知症患者」とひとくくりにせず、一人の人間として接し、各人にあったケアを提供する――。認知症の専門家たちが長年の苦闘の末に出した解決法にしては、「ずいぶん当たり前のことを言うんだな」と感じる人もいるのではないだろうか。

 平田さんも、「認知症看護認定看護師になったら、食事を嫌がる患者さんにもすぐに食事を食べてもらえるような、魔法使い的なものになれるのかなと思っていました」と語る。
 けれど、認知症ケアの現場に“魔法”はなかった。認知症看護認定看護師になるために平田さんが学んだのは、患者さんにあったケアを行うという“当たり前のこと”を“当たり前”にするための知識やスキルだった。

 認知症の進行を抑制する薬が続々と登場している昨今だが、現時点で完治・根治させる治療法は見つかっていない。確たる予防法もない。ケアメソッドも試行錯誤の段階だ。
 それでも、認知症ケアのプロとして学び続ける看護師がいる。それを支援し、後押しする組織や病院がある。こうした取り組みが広がり、定着したとき、「認知症になったら終わり」「認知症は不幸」という定説が変わるのではないか。患者はもちろんその家族の生活や人生は、今よりずっと希望あふれるものになるのではないか。そう感じた。

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